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NPO法人アスペ・エルデの会 特別顧問        
杉山登志郎(あいち小児保健医療総合センター)
NPO法人アスペ・エルデの会 理事長/統括ディレクター
辻井正次 (中京大学社会学部)       
NPO法人アスペ・エルデの会 医療統括ディレクター  
石川道子 (小児科医)           

 このたびの石狩市における少年による殺人事件はまことに残念であり、被害者の方、またご遺族の方々に、篤く哀悼の意を献げたい。この事件がまたもアスペルガー症候群と診断された少年によって引き起こされたことに対して、児童青年精神医学・発達支援の専門家として、事件を未然に防げなかったことを大変に重く受けとめている。

 近年わが国において、高機能広汎性発達障害の少年による重大犯罪が相次いでいることは、何よりもこのグループへの発達支援(治療および教育)のシステム作りが遅れていることを反映している。
 われわれは厚生労働科学研究において、このグループの反社会的行動の調査研究を行って来た。その結果、あいち小児保健医療総合センターを受診をした高機能広汎性発達障害の児童青年の4.6パーセントに(軽微なものも含む)何らかの触法行為が生じていた。これは言い換えると、95パーセント以上は、あらゆる触法行為とは無関係と言うことである。触法行為に結びつく特徴としては、1) 診断が遅れ、誤った対応を受け続けてきたこと、2) 子ども虐待やいじめなどの迫害体験の存在、3) 適応が極めて不良な状況の3点が認められた。この少年においても、あるいは長崎の事件にしても、事件の前に診断を受け、適切な対応がなされていればこの様な犯罪が生じるには至らなかったと考えている。実際に、継続的な支援を受けている場合には、重篤な犯罪を起こす場合は皆無であり、むしろ、騙されるなどして、犯罪の被害者となるリスクが高いことが指摘されている。

発達障害者支援法が今年の4月から施行され、アスペルガー症候群など広汎性発達障害が公認された障害の一つとして認められるようになることは大きな進歩である。しかし大きな問題は、この領域の診断と治療が可能な専門家が著しく限られていることである。高機能広汎性発達障害への発達支援(治療と教育)システムを作ることが、何よりも有効な予防になるものと考えられる。まずは、専門家の養成とともに、高機能広汎性発達障害児者に関わる保健、医療、保育、教育などの関係者が正しい知識と対応の仕方を身につけていくことが急務である。関係者が正しい理解のもと当事者の求める適切な支援ができるようになることと、すべての人たちが発達障害について正しい知識をもつことで、当事者がより幸福な人生を歩めるようになることを確信する。発達障害者支援法の理念を正しく理解し、本法の施行を機に国と地方自治体が、発達障害児者の幸福のため、さまざまな形での支援に積極的に取り組むことを切に要望する。