2024.03.10
 少々言いにくいことをお話しします。
 前回の将来の進路、という流れの続きと考えて頂けたら良いかと思います。
 軽度の知的障害がある子の進路として、名古屋市内では高等特別支援学校や特別支援学校高等部の産業科がある、という話から、特別支援学校普通科で企業就職を目指す、という方法もあるという話です。今回いくつかの具体例を挙げてみましょう。

 具体例その1は、まあ、我が家の次男。市内のすべての養護学校に加えて、産業科も見学に行きました。夫がすべて付き添ってくれました。撮影がオフだったわけではないです。中三の初夏、むしろ蛍の撮影のハイシーズンでした。それでも、次男の一大事、ということで、それぞれの学校から指定された見学の日には戻ってきてくれました。
 一応学区はあります。我が家は守山です。でも、市内であればどこでも受け入れてもらえます。最初は守山だと思っていました。だって、うちの近所スクールバスのバス停あるもん。そこから乗っていくんだと思っていました。
「あ、それできません」
 中学に入学して初の家庭訪問、担任の先生がおっしゃいました。どゆこと?
「スクールバスは重度の生徒から優先的に利用しますので、海ちゃんの場合はどんなにキャンセルがあっても乗れません」
うーむ。断言されるほど、確定的なのだな。
「だから、通い易いところに学区関係なしに行くのが良いと思います」
 ここで一つ疑問。
名古屋市では、市全体の特別支援学校・学級が集まる連合運動会というのがあります。区ごとに卒業生を送る会もあります。あと、うちの子達は近所の学校と合同でボーリング大会なんかもしてました。先日、閉場した星ヶ丘ボウルが会場で、私の職場の隣なので、休み時間に見に行ったりしました。そんな状況なので、同じ学校でなくても顔見知りになってしまう親子は出てきます。私の職場の最寄駅で、その中の一人とよく会うようになりました。卒業生を送る会で会っていたから、中学を卒業したことは知っています。つまり、高等部には地下鉄を使って通学しているということですよね。私はそれを、保護者の方針で敢えてのことだと思っていました。発話がほとんどありませんでしたから、私の感覚ではかなり重度でした。
「かくかくしかじかなんですが、それってご家庭の方針ではなく、スクールバスに乗れないって現実なんですか?」
 先生方も、近隣の学校の生徒さんに詳しいから即答です。
「そうです」
 そうなのかあ。自分で歩ける時点で、もう対象外らしい。
 そこから覚悟を固めて2年、市内の養護学校行脚の末に、まず夫が私に報告してくれました。
「産業科はなし。軍隊みたい。海ちゃんには向いてない。でもって、守山は普通科も軽度の子が多そう。ついていくのが難しいかもしれない。天白は逆にちょっと重い子が多い印象。海ちゃんが上手いことやっていけそうなのは、南と西」
 方向じゃないです。学校名です。本人に確認したところ、やはり南と西が良いとのことでした。但し、見学した順番が直近なのが、この2校でもあるので、親近効果だとも考えられます。面談をしていただけるのも2校。だから、これは決めて良いのでは、ということになりました。夏休みに面談をして、南養護学校を受験することに。とは言え、面接の後は希望者全入です。かなり重度の子から、見た目には障害があるとわからない子まで。
 どうせ全入なので、と面接には行かない、行っても子どもを連れて行かない、という保護者さんもおられましたが、これは絶対N Gです。子どもをできるだけ見ておいていただくのは当然のことですし、印象をよくしておいて損はない、というより、自分からわざわざ印象下げに行ってどうする、ということですね。
 高等部の先は、社会なんだから。

 さて、言いにくいことは、この先。
 希望者の多い大人気の産業科や高等特別支援学校ですが、ここに通う子には、学校に行きたくない、行けない子が一定以上の数いる、ということです。一定以上というのは、どこにでもそういう子はいますが、ここは平均より多いんじゃないかなあ、というものです。実際の数値は私の手元にありません。私の周囲に多いだけなのかもしれません。あくまでも私の個人的印象です。これが具体例2です。
ルーティーンが決まっている方が安定するタイプのお子さんなら、むしろやりやすい可能性もあります。ですが、厳しく管理されることが苦手だったり、きつい言葉で注意されると落ち着かなくなるタイプのお子さんには向いていないというより、明らかに相性がとても悪い。夫が「軍隊みたい」と言ったのはそこです。
 昼食一つとっても、普通科は給食ですが、産業科はお弁当です。就職したら給食は出ないからです。始業時間も早く設定されています。就業した後で遅刻をしないようにです。全てが就労のために設定されているのです。
 繰り返しになりますが、不登校はどの学校でもあります。長男もそうでした。今も、大学に行けなくなる日があります。不登校というと引き籠りという印象が強いようですが、部屋から出てこられない、もしくは玄関から外へ行けない、ばかりではありません。違うところへ行ってしまう、例えば公園にいたり、ゲームセンターにいたり。私たちの世代だと、一日中映画館にいるという技がありましたが、今は全席指定の入れ替え制なので、二時間くらいしかいられません。それから、どこにも行けなくて、立ち尽くしたり座り込んだりすることもあります。
 我が家の場合は、玄関から出られなくなるタイプだったので、出られるようになるまでは本当に心理的な圧が大きかったのですが、考え方を変えれば、引き籠るタイプは発見しやすいので実は手がかからないとも言えます。自身の意思で、どこかに行ってしまうのは、良いことではありませんが、対処はできます。立ち竦んでしまうタイプが一番大変なのです。家は出たものの、学校に入れなかったり電車に乗れなかったりというのがあります。大学でも、来ているのに教室に入れない子がいます。
 そういったことが起こるのには原因があるはずですが、それを明らかにするのは簡単なことではありません。自分でもわからないことも珍しくないのです。子どもの頃の行動の原因が、大人になってから自覚される、言語化される場合もあります。

 拘りがあり、口数が多い子だと、自己主張も強いと思われがちですが、そうとは限りません。周囲に言われたことを、強く思い込んでしまうこともあります。だから、自分で望んでいることを本当に言語化しているのかは、慎重に判断する必要があります。「この学校に行きたい」が本音である場合と、そう答えるものだ、と思い込んでの発言である場合とがあります。
 次男の中学の後輩で、本気でこの子は何故、特別支援学級にいるのかわからない、という男の子がいました。高等部でも後輩になりました。こちらも何故、普通科なんだろう、です。お母さんとは、あまり親しくなかったので、それについてお話ししたことはありません。でも、その学年では群を抜いて優秀。企業から学校推薦の話が来たら、真っ先に名前が上がりそうです。
 何より、ここでの成功体験は社会に出るにあたって、大きな力になると思います。
 でもって次回は、具体的な我が家の就活についてです。




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