2025.11.10
「そういうものだから」
私も、よく言います。心理学的に見て、「そういうもの」であることは、よくあるんですよ。いわゆる反抗期とか。親は、そう言われると安心します。でも、それで処理される側はたまったものではない。
我が家では、娘の父親に対する反抗が大変でした。長男もそうでしたが。小学校高学年くらいから、担任の先生との面談でご家庭における問題は、ずっと「反抗期」でした。父親との折り合いが悪くてと。
夫は、長男とは対立していたと思います。口論も多くありました。でも、娘のそれは、「反抗」として受け止められていて、ますます娘を苛立たせていました。彼女としては、理由があって父親のいうことを聞き入れるわけには行かないのに、「反抗期だから」で済まされてしまう。そのまま、別れてしまいました。
私の子育ての話には、繰り返し繰り返し、夫・父親が登場します。当たり前ですね。亡夫は気が向いた時には、子どもとがっつり関わっていましたから。彼は何をするにも、相手に良かれと思っています。ただ、良い結果に結びつくことばかりではないので、如何ともし難い男なのです。
「反抗期なんて便利な言葉で現実から逃げてんじゃねえよ」
とは、娘が言い続けていた言葉です。反抗期という錦の御旗さえあれば、自身の欠点(質問に説教で返す、怒らないから言ってごらんと言っておいて激怒する、最後まで話を聞くと約束したのに3秒で話を遮る、理解力のなさに呆れた相手が黙ると論破したと思い込む等)をないことにできる現実に彼女は大変に苛立っていたのだと思います。対等な相手だとすら認識してもらっていない。大喧嘩になって最終的には号泣することになっても、まだ父と兄との関係の方が、人間として認めた末のものだと思っていたのではないでしょうか。
夫が娘との問題を軽く見ていたのは、高1の2月から3月にかけて、2人でカナダに滞在した経験があったからです。夫はずっと、カナダのセントローレンス湾に浮かぶ離島で、アザラシの赤ちゃんの写真を撮っていました。その島では、アザラシウォッチングが観光の目玉で、夫は観光ガイドも勤めていました。日本からの観光客のほとんどが、夫の写真集を見て、この島に来ていました。
娘の名前は、タテゴトアザラシからとっています。でも、兄二人はアザラシと遊んだ経験があるのに、娘は1歳のときに行ったきり。小6の時、二人旅を企画しましたが、アザラシが出産する流氷が小さ過ぎて、ヘリコプターが着氷できないことがわかり、北海道にシマエナガを見に行く二人旅に変更になっています。それを経て、上手い具合に大きな流氷ができたとき、今を逃したら、次はないかもしれない、と出かけました。
彼はそういうことはS N Sでくまなく発信するので、当然のように自慢しました。そうしたら、年頃の娘が父親と二人で旅するなんて、信じられない、との反応が多くあって、夫は気をよくしてしまったようです。
「とっても素直でいい子だったよ」
とは夫の弁です。それが彼女の本音だから、反抗はポーズなんだよ、と。娘は、
「だって、お父さんしか頼る人がいない環境なんだもん。言葉だってわかんない(フランス語圏なので。フレンチカナダの田舎は、本当に英語が通じない)し、どこに何があるかもわかんないんだから、機嫌を損ねないように、すごく気を遣ったんだから」
でも、あの島に行くと、お父さんは唯一無二のヒーローだから、少しは見直したんじゃない?
「すんごい喋る。家にいるときも、本当によく喋ると思ってたけど、ずっと喋ってる」
それは、みんなが聞きたいと思ってることだし。
「いや、うざいけど、黙れって言えないんだよ、周りも。隣の人は、小原さんの話をありがたがってるかもしれないと思うから。でも、半数以上はうざいと思ってる」
すごい自信だな。
高一の3学期の最中だったので、帰ってきて学年末試験を受ける予定でした。
高校を勉強だけで終わらせたくないということで、特進クラスを選ばなかった彼女ですが、普通クラスの雰囲気がどうにも緩く、性に合わないので特進への変更願いを出していました。それを叶えるために、試験で良い点を取る必要があったのです。
ところが、吹雪で飛行機がキャンセル。島ではよくあることです。焦ったところへ、コロナによる一斉休校開始。
帰ってきても学校ないよー、というわけで、ちょっと滞在を延ばしました。お父さんと二人でいるのはしんどいけど、地元の子達と仲良くなって、もう少し遊んでいたかったから。
結果的には、それが最後の父親との親密な思い出になったんですけどね。
「でもね、死んだからって、いい人には昇格できないんだよね」
彼女は、どこまでもシビアです。
そして夫は、これが反抗期だと信じて、いってしまいました。
永遠にわかってもらえないことを拗らせているんです。
「いい人だとは永遠に認定しない。でも、お父さんはお父さんなんだよ」
照れ屋さんなんだから。夫は言いそうです。
そう言って、腹に拳でも入れられてください。娘、極真空手の全東海チャンピオンですから。
長男もそのタイトルは持っているので、力に物言わせたら、親父なんて壁まで飛びますよ。よく、我慢したと思っています。二人とも。