2022.12.10
 今年の3年生のゼミが面白いです。
 私のゼミは、心理学を研究するものではありません。創作です。小説を書いて卒業します。卒業論文に代わるものなので、半端な作品では困ります。びしばし指導します。それをわかってもらえないので、共学校のラノベ作家になりたい男の子が一杯いるゼミは、辞めました。
 毎週、担当者がいて、彼女(私の職場は女子大です)に90分の授業を任せます。なかなか、90分保たすのは難しいものです。人数が少ないときは、60分でもOKとします。学年によっては、人数は多いわ、よう喋るわで、時間が足りなくなることもありました。
今の3年生は、LINEを使って、事前に感想を集めたり、アンケートを実施したりします。時間を効率的に使って、自分が書いているテーマに関した質問することが多いのですが、これは本当に興味深い。もちろん、私も回答します。
例えば、倹約家の妹と浪費家の姉の話を書いている学生は、「自分にとって一番大きかった買い物と、最大の無駄遣いは何?」と問いかけます。
学生達の答えはと言うと。
「推し活」。一番多いですね。オタク系の子が集まるゼミでもあるので。「整形」「脱毛」。これも普通。特におしゃれな子が集まるゼミではありませんが、複数の回答があるし、周囲も普通の反応です。
私は「家」。今のマンションの部屋は中古で買いました。即金です。ローンなんか組めるか。途中で払えなくなる。お金があれば使ってしまう人がいたから。買ったとき、「これで、私の貯金は使い果たしました。でも、何があっても寝る場所だけはあります」と宣告しました。
「『愛』ってなんだと思いますか? 『恋』との違いは?」に対しては、「そもそも愛なんて信用しない」「誰になんと言われても貫けるのが愛だと思う」「愛って、究極的に言うと自己満足だよ」なんて答えは、創作を志す女子が集まれば当然出てくるわけで。それに対して、「愛はあるよ」と答えます。「夫の最後の言葉が『あけみちゃん、愛してる』で、私は『玲さん、愛してます』って送り出したから、なきゃ困る」。
「先生は、人生経験があるとかないとか言う前に、人生そのものが過激」だと言われたら、否定できません。でも、人生が過激なのか、それを語る語彙を持っているだけなのかは、難しいところです。
言葉を磨くゼミでもあるので、言葉を使ったゲームもします。LINEを使って、いろいろできます。それぞれに単語が送られてきて、その中に一人だけ仲間外れがいる。一人ずつが、その単語を説明して行き、誰が仲間外れなのかをあてたりします。そのものズバリを言ってしまってはいけないから、これはとても良いトレーニング。
「朝によく作る」「お弁当に入ってることがある」「形を作るのが難しい」「具を入れることもある」「お父さんの大好物」。
これは、2番目以外はオムレツ、2番目だけゆで卵です。5番目は、わかるか、そんなもん、と言う回答ですが、その単語に関する説明としてはルール違反ではありません。少なくとも、食品であることは示していますから。探してみると、いろいろあるのでお子さんとゲームをされるのも良いかもしれません。言葉の訓練になりますよ。

さて、いろいろな工夫で90分を乗り切る現役生達ですが、上記の通り、放っておいても90分以上の議論を繰り広げることが可能な学年もありました。この学年は4年生がまるっと遠隔授業になったので、その際にはチャットを多用して切り抜けたものです。
 オンラインで繋がるにも、いろいろなツールがあって、アスペ・エルデの会では専らZoomが使われています。一番、ポピュラーな手段ですね。でも、私はGoogleのMeetを使っていました。同じくGoogleのClassroomと合わせると、最も使いやすくて、入りっぱぐれないのがこれだったんです。
 最初はマイクロソフトのTeamsがメインだって言われたんですよ。私は機械に疎くて、なんでこれできないの、ってことが多いです。むしろ、すんなりできると「嘘」って思うくらい。ですから、オンライン授業が始まる予定の時期より、ずいぶん早くからゼミ生相手に練習を重ねていました。そのときTeamsを使ったら、便利だったので、このゼミのみ、Meetに移行せずに、ずっとTeamsでした。データを共有して、誰でも編集できるようにしたり、チャットに画像や動画を貼ったりできたのと、何より、チャットのログが残ったからです。
 先にお話ししたように、口数の多い学生がたくさんいるので、発言者以外からもチャットで意見が出せるのは有難い機能でした。
 そして、このクラスには緘黙の子がいたんです。特定の状況下で発話が不可能になる症状です。彼女は授業中も筆談でした。毎回、私にはレポートを出すようにしていました。豊かな言葉を持っている子なので、彼女が出してくれたレポートは今も私の宝物です。イラストもついていました。
 チャットを使うようになった彼女は、どんどん発言を増やして行きました。筆談のときとは、使える文字数の桁が違うのです、文字通り。
 これがなかったら、彼女はこれだけの思いを誰にも伝えないまま、卒業してしまったのか。
 今は、私の職場は全て対面になり、遠隔授業はありません。
 長男の大学では、教養科目(全学部共通の大人数の講義)についてのみオンデマンドが採用されているそうです。
 やはり対面授業に勝るものはないと、私などは思います。終わった後で、ちょっと雑談したりなんて機能が、オンラインにはありませんから。廊下で「お疲れさま」って声をかけたり。
 だけど、指で語る子もいるんだと、それは忘れたくないと思っています。
 そして、コロナなんて鬱陶しいけど、新しい居場所を提供する一つの機会になったのは確実だと思います。
 それは、個性的な発達をする子には間違いなく福音です。

 Teamsを、一クラスでしか使わなかったのは、入りにくいからです。時間を設定して、招待しないと入れないし、開始時間を過ぎると招待メールからのリンクが消えてしまうこともあり、入れない人が続出しました。私ですら、入れなかったことがある。
 LINEも併用していたので、「入れないから、先やっといて」と伝えました。
「入れない」との連絡があると、私ではなく、こういうことに強い子がリンクを送って入れるようにしていました。でも。
「すみません。さっきから、どうやら私は別の部屋に入ってしまったらしく、謎の会議が続いていますが、どうしたら良いでしょうか」
 なんて連絡も来ました。とりあえず出なさい。
 それにしても、どうやって入ったのか。謎です。


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