2021.11.10
 我が家は汚部屋でできている。
 汚部屋キャラで売っている芸人さん達がテレビに出たところで、なかなか負けません。ただ、ゴミの日には絶対にゴミを出すので、部屋の中にはありません。問題は本来はゴミではないものが、無用の長物化している現状です。
 ゴミ屋敷には二通りあると、その道のエキスパートである私は思います。いや、なるなよ。エキスパートに。
 散らかし型と積み上げ型。我が家は積み上げてます。長年住んで、あちこち劣化しているのに、ものが多過ぎて業者さんが入るどころではなく放置という日々でした。
 で、積み上げ型の家の大きな問題として、ドアが閉まらなくなる、というものがあります。床にどんどん物を置いて積み上げると、雪崩が起きます。最盛期には、我が家の廊下に面した5つのドアのうち、閉まるのはトイレのドアだけ、という体たらくでした。トイレのドアは死守したというべきか。
 夫の仕事部屋、兄二人の相部屋は、床に物が溢れていて、ドアが閉められない。お風呂の脱衣所は、引き戸ですが、敷居に物が落ちて戸が動かない。夫は我慢の効かない質で、欲しい物があると買ってしまいます。それが往々にしてでかい。浄水器とか、室内型家庭菜園とか。一回使って放置します。たとえ小さな物でも、塵も積もれば、です。
 廊下にも物が溢れて、兄部屋の床は見えません。

 しかし、我慢にも限界という物があります。
 始まりは、コンロの不完全燃焼でした。ガスの火は青いものですが、オレンジ色の炎が上がり、鍋底に煤が着く。そもそも時々、火が消えている。いかんがね。
 更に私は30年以上にわたり、東邦ガスさんの感想文コンクールの仕事をしている。相談してみました。
 結果、コンロとレンジフードを新調することに。
となると、お風呂はどうでしょうか。風呂桶も4年前に罅が入ったのを、補修用テープで誤魔化してんだよな。
 お風呂の下見にいらした業者さんが、
「洗面台は良いんですか?」
 訊くよね、うん、商売だもんね。お風呂ぴかぴかで、洗面台が古いってどうかな。新しくなったら、娘、喜ぶだろうな。
「サービスでキッチンの蛇口もお取り換えしますよ」
 わーい。かなり前から水漏れしてたんだよね。
 というわけで、火と水の周り、まるっと取り換えることになりました。最初は、予算を抑えようと思ったものの、今回替えたら後一世代保つってことですよね。だったら、子ども達(主に娘)の為に替えちゃえーと謎のテンションになって。

 更に、夫が病に倒れます。今まで、敷きっぱなしの布団に寝てたのが介護ベッド必要になりました。倒れたのは取材先で、そのまま現地で入院しましたが、移動が可能になれば帰ってくる。
 家中、散らかし倒した本人が動けないので、床も見えない状態で積み上げられたあれやこれやと。私一人で戦っております。頼みの娘は受験生。息子達は手伝うって言うよ。でも、壊滅的に整理整頓のセンスがない。多分、手伝えば私の仕事を増やす。
 ていうか、大概糞親父でここ数年、娘には口もきいてもらえなかった夫ですが、よもや彼女が人生で一番そっとしておいて欲しいときに死にかけるとは。
 障害物競走のように歩かないといけなかった我が家が、普通に歩けるようになりました。まだまだ、片付けないといけないところはあります。これでは、まだ工事に取り掛かるのに不完全です。夫の快適なスペースは確保しましたが、私の寝場所がありません。退院してきたらヨギボーで寝るつもりです。

 思えば、子ども達が小さい頃は、ちゃんとした家でしたよ。公園の帰りに友達が普通に寄ってきました。子ども達も、友達を連れてきました。それが、いつからだよ、と思うのですが、一つネジが外れると、人は本来の自分を見失うものですな。て言うか、「片付けられない」んだよ、我が家の男どもは。そして、私も奴らの尻拭いをして回っておっては、仕事にならんのだよ。診断を持っているのは次男だけですが、夫も長男も確実にそっちだ。
 現在、連日、45リットルのゴミ袋をいくつも出して、生活環境は現在進行形で着々と整っております。只、すんごい疲れるわ。いらんものをゴミ袋に詰めて、全部捨てりゃ良いんだけど、夫やその作品が載ってる新聞とか雑誌とか、こういうときだから捨てられない。今回のリフォームとは関係ないところにも積み上がるものを考えると、ゴールの見えない作業なので、だんだん嫌気が差してきた。
 夫が生きて退院するとは限らない。
 娘が大学に合格するとは限らない。
 長男の鬱が生きてるうちに寛解するとは限らない。
 なんだ、今、我が家で一番、安定して未来が見えているのは、大企業の障害者雇用枠で働いてる次男じゃないか。
 生きてれば、こんな日も来るもんですね。
 子どもの頃は、この子は将来どうやって生きていくんだろうと悩んでいたのに。

 出発点は、とても歓迎できたものではありませんでしたが、こうして環境が整ってみると、やはり生活し易いと実感します。廊下を普通に歩けるだけで、ドアが普通に閉まるだけで有り難い。
 さて、戦い続ける私が、来月どのようになっているかは神のみぞ知る。
 っていうか、神様だって多分わかんない。
 少なくとも、前々回の原稿を書いていた私は、普通の家族と暮らしていたから。
 大概、起伏の激しい人生を、へらへらした顔で乗り切ってきましたが、このジェットコースター展開、どう乗り切りましょう。
 私が、交際0日で夫と結婚を決めたのは、この人と一緒なら人生退屈しないで済みそうだと思ったからです。
 とりあえず、退屈はしていない。


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