2021.03.10
 発達障害とデジタルツールは相性が良いものである、というお話をしました。だから、得意分野を伸ばしてあげよう、という視点は持っておいて損はありません。
 但し、ネットリテラシーは大切。アスペ・エルデの会でも、社会人グループでそういうセミナーを持ったこともありました。思わぬ方向から、やらかす人達ですので、用心するに越したことはありません。
 最近は、小さい子でもスマホを持っていることが多く、個人のスマホにフィルターをかければ済むこともあります。スマホネイティブの世代には、スマホでなんでもするのが一番ストレスが少ないみたいですからね。私が子育てしていた頃は、デスクトップのPCを親子で共用していたので、子ども用のフィルターをかけられないこともありました。
 ネットの闇は深いもので、「アンパンマン」で検索しても、グロ画像にヒットすることがあるのですね。長男は小学生のとき、「キーボードクラッシャー」という動画に嵌ったことがあります。外国人男性が、罵詈雑言を英語で喚きながら(日本語字幕も出ます)、キーボードを叩き壊していくものらしいのですが、これは夫がやめさせました。スラングがあまりに酷かった、というのがその理由です。
 ただ、私はあんまり「教育上よくないもの」を制限したくないのですよね。というのも、自分が食らったトラウマとか、よろしくないものは、私の感性の一部を確実に形作っているのですよ。幼少時に接したエログロナンセンスがあって、小説が書けたんです。よくないものをシャットアウトする家庭に育っていたら、学者にはなれたでしょうが、作家にはならなかったでしょうね、私の場合。
 それから、制限されていたものが解禁されたときの反動も、甘く見ているとお釣りが来るほど大きいので。

 さて、デジタルツールに強い次男ですので、iPadは早くから持たせていました。フィルターを使うなら、自分のものを持たせるのが手っ取り早いのです。そして、誰に教えられなくても、検索機能を使って、いろいろ調べるようになりました。
 アンパンマンの動画を調べるレベルなら良いのですが、そのうちに、アンパンマンやスーパーマリオの古い遊具がある場所を特定して、行きたがるようになります。
 うちの夫は、次男にとても甘いです。動物写真家で、そこらじゅう放浪していて、好きなときだけ帰ってくる夫を、長男と長女はクールに見ています。あまり関わりを持ちたがりませんし、その気持ちもよくわかります。だから、自分の思い通りに動いてくれる次男に肩入れするというか、もともとの肩入れがあったから、距離をおかれたというか、ですが。
 つい最近まで、我が家の重要な行事として、長期休暇の旅行がありました。東北・九州・能登、夫の取材先がメインですが、行きたいところやしたいことを決めて、最低3泊の旅です。その目的地に、次男が見つけてきた遊具のある場所が入ることが多くなりました。なぜ、彼がわざわざ検索して探すのかというと、もうほとんど残っていないからです。大好きなマリオカートを検索はしません。だって、どこのゲームセンターにもありますから。そして、これらが残っている場所は、全てと言って良いほど、寂れています。ほとんどの店にシャッターがおりたショッピングセンター、人のいない小さな遊園地、地方の小さなビルの屋上。つまり、行きたいと言った次男と、連れて行った夫は満足しますが、長男と長女は本当にすることのない場所です。わざわざ遠くまで来て、どうしてこんなとこで兄弟を待っていないといけないんだろう。時間も労力も無駄。
「なんで、自分で楽しみを見つけようとしないの? どんなところででも楽しみを見つけられない人間は駄目だよ」
 という説教までついてくる。この説教かます人間は、自らは平気で、
「ディズニーランドなんて、何が楽しいの? 行っても無駄だよ。もっと楽しいところ行こうよ」
 と言います。どんなところででも楽しみを見つけてください。
 というわけで、長男・長女のために、別行動をとることが多くなりました。家族は一緒にいたいという夫は不満そうでしたが、自分の都合で家族を動かす側と、動かされる側とでは事情が異なるのは当たり前です。
 そのうちに、夫も良い顔ばかりはできなくなりました。わざわざ次男を連れて行った先に、目的のものがない、ということが増えてきたためです。ネット上では、一度おかれた情報は意図的に削除されない限り、半永久的に存在します。だから、彼が「ここにこれがあるはず」と主張しても、既に撤去されていることもあります。
 次男を甘やかすのは好きですが、本来、自分のことが一番好きな夫が、何度にもわたる空振りに耐えられるわけもなく、彼の情報源の年代を調べて、古い情報の場合は電話をかけて確認することにしました。
 すると、次男が、
「電話をかけないでください」
 と言い始めます。電話の結果、「もうないから行かないよ」と言われることが重なると、ネットの中には確実に存在しているのですから、電話をすることによって消えてしまうような気持ちになったのかもしれません。夫の嘘を疑った可能性もありますが、おそらくそこまでの推理能力はないと思います。
 今は、養老公園というマリオの遊具が確実にある場所を確保していて、そこに一人で行けるようになったので、落ち着いています。これも、自分で情報を獲得した結果です。
 新情報としては、マリオの一番くじがときどき出るので、どこでいつから、というのをチェックしています。マリオでよかった。人気はそこそこなので。大人気ジャンルだと、すぐになくなっちゃいますから。売り切れていても「売り切れだって」と言えば納得してくれます。
 長い時間をかけて、ネット上の情報と現実は違うんだ、と理解したのだと思います。
 彼は今、落ち着いて自分の余暇を楽しんでいます。
そして、私のスマホには、夫から送られてきた数々の写真が残っています。
「〇〇は撤去されました」「〇〇はサービスを停止しました」という貼り紙の前で、もしくは更地の前で、泣き真似をする次男の。





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