2016.12.10
社会への第一歩
堀田あけみ
特別支援校高等部の秋は、現場実習の季節です。昨年はカフェギャラリーでお皿を洗ったり、クッキーを詰めたり、ちょっと作ったりもしました。結構、レベルの高いこともしましたが、就労移行支援といって、福祉事業所のお仕事です。二年生の今年は、企業実習に挑戦しました。
企業実習を希望する生徒に、先生は合ってると思われる実習先を探してくださいます。カイトはなかなか決まらず、二年生の実習期間である10月を過ぎた、11月の半ばに一週間、スーパーの青果部門で働くことになりました。
幸いなことに働くの大好きなカイトです。早速、学校から渡された実習日誌を予習します。毎日のチェック事項に「決まった時間に自分で起きる」とあったので、まず、自分で起きてきました。食品関係なので、事前に検便の義務があります。うわ、この年になって 子どもの検便取らされるのかよ、めんどくさいわー、と思っていたら、自分でやってくれました。なんでも自分でやりたいカイトくん、であるのと同時に、やっぱりカイトとはいえ、17歳にもなって、おかあさんに頼りたくないんだろうなあ。
大人になったのは、そこだけではありません。毎晩、一日何があったか、カイトに訊いていました。様々な作業を経験できたようで、野菜や果物の袋詰めは元より、葱の長さを揃えて切ったり、4分の1に切った白菜にビニールを巻いたり、シールを貼ったり、と教えてくれました。ご挨拶した主任さんは男性でしたが、女性が指導係としてついてくださったようです。一番優しい人として、その人の名前をあげて、「女の人です」といっていました。そして、一番厳しい人も、その人でした。「これは駄目です」「やり直しです」何度も言われたそうです。
カイトはちゃんと知っている、と再認識しました。優しい人と厳しい人は、同じでありうることを。それは、カイトがそのような人にずっと接してきたからでしょう。信頼できる先生が、優しく厳しく指導してくれる、そんな環境にいることができたから、厳しさの中にあるものを知っているのです。大人になっているのですね。
また、そうやって素直になれることがカイトの強みです。
実習の終わりの報告会で、おとうさんが主任さんにいただいてきた言葉は、「健常の子ができないこともできる」でした。きちんと挨拶して、報告もして、わからないことはちゃんと訊いて、仕事ムラがない。できる、できないという
能力の問題よりも、普通の高校生だと、したくないことなんじゃないかと思います。心情的にしたくなかったり、単にめんどくさかったり。でも、カイトができることを評価してくださるのは、とてもありがたいことです。
カイトが将来的に就く仕事として、こういった単純作業は大きな可能性を持っていると思います。時間がわかっていたら、その時間までしっかり頑張れるタイプだし、体力はあるし、手先も器用だし、簡単な計算は早いし。
でも、同じ母親の立場から、ちょっと心の揺れる言葉もいただきました。
「カイちゃんて、絵とか音楽とかできるし、もっと芸術的な方面の仕事ができそうなのに(いや、そんなに簡単じゃない)、野菜なんか詰めさせてていいの?」
「そういう仕事で満足できる子はいいよね。うちは、ジャガイモ詰めるだけとか、ネジ締めるだけとか、そんな仕事する子じゃないから、仕事選びが大変」
でも、気持ちが下がったときに、ちゃんと救世主が現れるのが、私の人生です。実習の終わりにカイトがもらった言葉は。
「地味でつまらない仕事、と思うかもしれません。でも、この先には、『この店で買って良かった』『この前のリンゴは美味しかった』といったお客様の笑顔があります。そのことを忘れないでください。」
こう言える人の元で働いた一週間は、必ずカイトを大きくしてくれるはずです。
きっと、そのお客様の笑顔の先には、その人の作った料理を食べる人の笑顔があるんですよ。
学校から行く、全員参加の実習の他にも、名古屋市が主催して、市内のすべての特別支援校から企業実習を希望する生徒を集めて、受け入れ先との面接会を開いてくれます。カイトはそれにも参加しました。3社の面接を受けて、2社に受け入れ可としていただきました。
12月にはそちらの実習も待っています。
頑張ろうね。