2016.11.10
親孝行
堀田あけみ
どうやら神様はいらっしゃるらしいのです。それも、私に相応しい一筋縄では行かない方が。だから、我が家では滅多な望みを心に抱いてはいけません。
カイトがお腹に入ったばかりの頃、本当に体がだるくて、でもマナトは1歳を越えたばかりで遊びたくてしょうがないし、胸が岩のように硬くなる断乳を 経験して体力は消耗しきっていて。消耗しているのはおとうさんも同じで、休憩しようとするとサボってると言われるから、無理に無理を重ねていました。
ゆっくり休みたい。
一日中寝ていたい。
1秒でも長く横になりたい。
一日中そんなことを考えていたら、切迫流産で入院しました。点滴くっつけて、一日中寝ていられる。不安と、マナトに会えない寂しさと一緒に。
ああ、滅多なことを考えるもんじゃない、と肝に命じた筈なのに。
子ども達も大きくなって、マナトは先日、初の選挙を経験しました。カイトも現場実習でいっちょまえにお仕事しています。自分の子育ては一段落。で、子育て応援のスタンスを探る日々、ふと思ったのです。
ネタがないなあ。
ネタ、降って来ないかなあ。
来たよ。大ネタが。
コトコが骨折しました。オハラ家、初の骨折です。とにかく丈夫なのが私の取り柄で、病気はしない。怪我もしない。転んだり、落ちたりはするんですよ。でも、骨は折らない。苦労する、の比喩として折るだけで十分ですよ、骨なんて。10歳のとき、登山中に崖から落ちても擦り傷だけでしたもん。
子ども達もありがたいことに私に似てくれました。特にコトコ。生まれてから今まで、3回くらいしか37度以上の熱を出したことがありません。まあ、それでも、いきなりもどして、布団をえらいことにしてくれたのは2回くらいありました。それも、遠足の日に。当然、欠席。小学校で唯一の病欠は遠足です。ちなみに、もう一回は幼稚園のとき。毎学期、最後の給食がバイキング形式です。「オードブル」と呼ばれています。その日に休みました。園に欠席の電話をかけている後ろで、
「おうどぶりゅうううう」
と泣き崩れていました。2歳のとき、カイトのバイキンUFOのアンテナが、折れてコトコの頭に刺さったときには、手術をしました。レントゲンを怖がるので、
「魔法の写真だよ」
と宥めたら、指をほっぺにあてる、可愛いポーズで撮らせてくれました。可愛い骸骨を見ながら、手術の説明を受けたのはシュールな経験です。
カイトも頑丈です。ただ、皮膚感覚に過鈍なところがあって、大事に発展します。冬のカナダでは知らないうちに凍傷を負っていました。イオンで頭から血を出しながら歩いていたこともあります。どちらも、どこで傷を負ったかの記憶はありません。たった一度、高熱で休んだのは、マナトの高校の卒業式。家から、何度も電話をかけてきました。不安だったのでしょう。滅多に倒れないくせに、よりによって今日かよ、というのは血が争えないところです。
マナトは、一番弱いかもしれません。小さい頃、熱や風邪、それから怪我でよくお医者さんに行きました。最初の子どもですから、いちいち、おとうさんが大事にして、ただの風邪なのに日赤に連れて行ったりしました。ただ、一番、といっても、我が家の子ども達の中でのことなので、基本的に皆勤賞ペースの子です。まあ、 高校に入ってから大雪崩を起こしましたが。
そんなマナトが、今回の立役者になりました。ギプスで腕を固定したコトコは、会う人、会う人から、
「空手?」
と訊かれていますが、友達の家で壁にぶつけた、それだけです。日曜日のこと。右手の薬指の根元、痛いとはいうものの、動いているし、たいしたことないと思って、月曜日の放課後、近所の空いてるお医者さんに行こうと思っていました。空いてる理由は、評判が良くないからで、私も子ども達は別のところに行かせていたのですが、代替わりしたというし、何より忙しいしということで。そのお向かいにある大きな病院は、有名なんですが、混んでいるので。
「待ち時間がいくら長くても、大きい方に行くべきだ」
というのが、近所の医者を知り尽くしたマナトの意見。
予約を入れて、翌日に手の専門の先生に診ていただくことになりました。結果、レントゲンでは見つからなかったものが、CTでみつかりました。 マナトは成長期に関節の炎症をMRIで見つけてもらっています。わざわざ子どもにそんな検査して、お金かかるじゃありませんか、なのですが、名古屋市は中学を卒業するまで医療費は只です。
丁寧な治療と、リハビリの指導をしていただきました。
マナトの助言がなかったら、雑に固定されていただけだと思います。
私は普段、子ども達の体調を考慮して、スケジュールを組むことはありません。3年前に、マナトの体調最優先で、綱渡りのように日々を過ごしていたことはありましたが、それも長くはありませんでした。今は、休むときは一人で休めるので、基本的には自分のことは任せています。
子ども達は元気であたりまえ、自分のことができるもの、そう思って生きてきました。親孝行な子どもを持ったものです。
こんなふうに、ときどき手をかけさせてくれるのも、親の醍醐味とさせてもらいましょう。
そして、お約束のジェネレーションギャップも。
「昔は、友達がギプスすると、寄せ書きしたもんだけどなー」
「何それ有り得ない。てか、駄目でしょう怪我人にそんなことしちゃあ」
そもそも、ギプス、石膏でもなけりゃ、真っ白でもないし。
とれるまで、後2週間です。