2016.10.10
やっぱり、忙しい
堀田あけみ
大学では、心理学と同時に小説やエッセイの創作も教えているので、起承転結のきちんとした文章の書き方は、教える内容として必須です。そんなとき、例として引くのが、長嶋茂雄読売ジャイアンツ終身名誉監督の電報です。
水の江滝子という女優さんが生前葬をなさったときのエピソードなのですが、そのとき披露された長嶋氏からの弔電が「やっぱりキャンプ中でした」だったのだそうです。
列席者ほぼ全員が心の中で「しらねーよ」と突っ込んだことでしょう。キャプと葬式関係ないわ。
この真意は「お招きいただきましてありがとうございます。」「日程的にチームのキャンプ期間と重なるのではないかと危惧しておりましたが、」「やはりキャンプ中でした。今回は伺うことができません。」「遠くからご盛会をお祈りします。」ということなのだと、野田秀樹さんが読み解いておられました。変なところに鉤括弧が付いているのは、文章を「起」「承」「転」「結」で区切った為です。それを見ていただくとわかりやすいと思うのですが、件の電報では「転」の部分のみが使われているのです。織田信長と並んで、実はこっち方面では、と言われることの多い方ですが、まさに他人とは思えない。
それを受けての今回のタイトルです。
「子育て応援団」を自称するには、あまりにも子ども達が大きくなっちまったのではと思われるこの頃のオハラ家です。町で小さな子どもさんを連れた人を見ると、羨ましくなることが、かなり前からありました。あんなに大変だったのに、どうしてこんなに懐かしいんだろう。
過去とは、思い出とはそういうもので、青春時代なんて、自分がなんだかわかんなくて、思い通りにいかないことだらけで、赤面するようなこと山ほどしでかしてたのに、きらきらしてるもんです。
この四月から、オハラ家は全員が何をするにも大人料金を払うようになりました。正確に言うと、カイトのお蔭で障害者料金が適用されることも多いですが。もともとなんでも自分で出来る子だったコトコですから、制服も管理は完璧、明日の準備も寝る前にきちんと、そもそも、家が狭くて子ども部屋がお兄ちゃん分しかないからと、自分で家にある家具を使って、勉強コーナーを作ってしまう子ですから、手なんか全然かかりません。
今まで、夏休みは親は大変だったけど、今年からは楽になるんだあろうなあ。たまった仕事、片付けよう。
ならない。
なぜだ。
やっぱり、忙しいぞ。どうしてだ。
まず、予備校生マナトに、塾の休みは無い。となれば、朝はきりきり起きて働かなきゃいけません。
高2のカイトには、既に就活が始まっていると私は見ています。説明会、見学会、面接。夏休みだからこそ、いろいろある。現場実習に行くのにも、面接があるわけで、落ちたりもするわけで、本人はよくわかっていないながら、親の方はこういうのが人生だとわかっていながら、落ち込んだりもするんです。真剣に、自分のときより辛いや。
そして、コトコの宿題。ここ、ほんまに公立か、と言いたくなるほどいろいろ個性的な中学校で、他の学校では自由研究と言われて、やってもやらなくてもいいものが、こちらでは課題研究と言って必須。それも、大規模な発表会まである。最優秀研究は、名古屋大学の豊田講堂で特別発表ですぜ。でも、本人はやる気があるとはいうものの、ずっと寝転んでいます。夏休みのはじめに、おとうさんにスマホ買ってもらっちゃったからなー。勉強しないの、大丈夫なのといえば、
「今からやろうと思ったのに」
野原しんのすけか。
「大丈夫。ちゃんとやるから」
うん。ちゃんとやる子なのは知ってる。ただ、どうせちゃんとやるんなら、余裕を持ったらどうだね。
おかあさん、手伝わんよ。
これが、8月末の怒涛の、
「おかーさーん、おかーさーん」
に繋がるわけですよ。
なかなか、楽にはなりません。なったらなったで寂しくなる、母の気持ちを子ども達は読み取っていると思います。カイトですら。
でも、宿題に四苦八苦するのは、かーなーり、本気でもういいや。
あと、何年あるんでしょう。