2016.07.10
           トラウマと生きる
            
                         堀田あけみ

 携帯電話を持たないマナトは、iPad mini(通称 mini)を愛用しています。今まで3年使って、3回くらいしか実際に役に立ってないけど、 一応「Face Time」とかいうのを使って、リアルタイムでの連絡もとれます。メールは普通に使える。予備校生になったので、何かあったときに職員室に電話をするわけにもいかない今、そろそろ携帯の出番ですかね、と話しているところです。
 さて、高校に推薦入学が決まったとき、携帯いらない代わりにminiを買って、これはマナトのものだから、と所有者の情報を登録しました。生年月日を機械が記録するので、自動的にR−18のサイトはブロックされます。だから、マナトの18歳の誕生日が来て、私も初めて知りました。18歳になった途端に、エロもグロも無制限に手に入るんだわ、いきなり。
 それが悪いとは言いません。私は、新聞にも町角にもポルノ映画の宣伝が普通に存在した昭和の子どもですから。そして、好奇心の塊の年代で、タガが外されると、どっかでトラウマもんの経験をするのも想定済み。それも良いと思っています。
 人間は、トラウマと一緒に生きてくもんだ。
 綺麗なもの、正しいものだけ見てちゃ、本物の大人になれない。

 でもって、彼は着実にトラウマを増やしているようです。ただ、それはマイナスの意味しか持たないものではなくなっているし、抱えてどうしようもなくなるような年齢でもないでしょう。「コロコロコミック」で、夏に怪談ものちらっと見ただけで、具合悪くなってた子が成長したものです。コトコは未だに、見ていられませんが。
 彼にいわせれば、今までだって、嫌という程、主に人間関係でトラウマは植えつけられてきたし、小学生の国語の教科書なんて、トラウマだらけだと。
「きつねのおきゃくさま」「ちいちゃんのかげおくり」「スーホの白い馬」「ごんぎつね」。確かに何してくれてんねん、というラインナップです。新美南吉は「百姓の足 坊さんの足」も地味に怖いぞ。
 漫画家の東村アキコさんが子どものしつけに絵本「地獄」を使っていると言ったら、「それはいいや」と大売れに売れたそうです。親の言うこと聞かない子は、こんな目に遭うぞ。そりゃいうこと聞くわ。
  私は買っていません。だって、躾ってそういうもんじゃないと思うし。地獄は怖いよ、というばく然とした不安は、人間には必要だと思っています。地獄に落ちたくないから、悪いことしないっていうのは、真っ当な発想だと思う、人として。でも、地獄絵巻って洒落にならんよ。日本の多彩な恐怖を煽ってくる地獄の描写はギャグ漫画「鬼灯の冷徹」で十分です。トラウマってのは、意図的に植え付けるものではなくて、うっかり拾うものであって欲しいし。私達の世代の「漂流教室」や「はだしのゲン」はどっちにあたるのかわかりませんが。
 個人的にはとんでもない大トラウマが、昭和40年代の「りぼん」で8月号になると掲載されていた巴里夫の戦争漫画 。少女相手にここまで本気出すかと思いました。小1のときに読んだ東京大空襲を描いた「愛と炎」なんて、夏休み前に読んだせいで、夏休み中、全然楽しくなかったくらいです。何してても、死体の絵が目の前にちらついて。

 だけど、多分、子どもの頃の苦みは、大人になったら旨みになるんだ。そうありたい。マナトとコトコの前には、まだまだいろんなトラウマがある。
 ちゃんと拾って、味のある人生を送ってください。
 あ、カイトは別。単純な意味でのトラウマは、拾うなよ。
 君ら、一旦、いかんとなると、日常生活に影響及ぼすくらい、いかんから。
 でもって、どこで何を拾って、パニック起こしとるのか説明できんから。
 如何ともし難く、降りかかってくる出来事には。
 頑張って、対処していこう、うん。



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