2023.05.10
 新しい年度が始まって、それぞれのおうちで慌ただしい日々が落ち着いたり落ち着かなかったり、だと思います。私は、落ち着いてないですね。そもそも、勤務先が大規模な改組を控えているので、何かにつけて慌ただしいことこの上ないですし、3月に二つの引越しを体験したので。そうすると、私のような粗忽者には、様々なトラブルが生じるわけです。
 二つの引越しの一つめは、長女が大学進学に伴って京都に。こちらは予想できたことです。でも、長男が管理していた亡夫の仕事場がマンションごと壊されるので出て行って欲しい、というのは晴天の霹靂。あ、無体な追い出しじゃないですよ。ちゃんと、引越し費用ももつし、新しい部屋の斡旋もするから、というものでした。
 そうすると頻発するのが、預金通帳と同じ印鑑を書類に押す、という作業ですが、どれがどれだか忘れてるんだなあ。あまりにも忘れるから、全ての通帳の印鑑統一したんですよ、何年か前に。そしたら、どうやらメインのやつだけ忘れてたらしい。そのとき新調して、キティちゃんのケースに入れた奴じゃなかったら、どれよ。「U F J」って書いたるの二つあるんだけど。さらに言うなら、どっちも夫の筆跡っぽいんだけど。
 申請した娘のマイナンバーカードも来ないから、本人確認ができなくて、家賃引き落とし用のカードが作れない。仕方がないから、パスポートを作って乗り切ることにしました。そしたら、住民票と居住地が一致してないから、また面倒臭い。
 夫の墓所も買ったけど、墓石のデザインが決まらない。
 頭抱えっぱなしですよ。

 思い出すのは、数年前の四月です。普通は新生活が始まったら、一安心するものです。私は15歳になった次男の進学先を決めるにあたって、名古屋市内の特別支援校(何故か、頑なに「養護学校」と言う名称)の見学5回(これは全部夫が担当)、予備面接2回、志望校決めての本番の面接、入学説明会と、そりゃもう、あちこちに足を運びまくりました。
 無事に入学して、しばらくは息をつけるかと思ったんです。何故かと言うと、長男が高校に入学したときは、そうだったから。まずは一息ついてから、どこの大学目指すか考えましょうって。
 決めるまでには、様々な精神的・肉体的作業を重ねて行きました。それもこれも、自分の意思では進路を決定できない子どもに、少しでも良い適応が期待できる環境を望んだからです。一所懸命頑張ったもん。ちょっとくらいは休みたい。

 ところが、養護学校は高等部に入学したらすぐに就労先をどうするか考えなければいけなかったんですね。入学式の後ですぐ、夏の職業実習の説明がありました。目の前のこの子に、どこまでの能力があるか、未知数だというのに。また、学校が始まると、折に触れて、作業所の説明会のプリントが配られます。出かけて見学して、大体そこで実習をお願いすることになります。
 次男は小学校と中学校、同じ特別支援級にいた友達と一緒に進学しました。そちらのお姉さんとうちの長男は同学年で幼稚園から一緒です。歳は違うけど妹もいて、仲が良かったので、当然お母さんとも、行事の際にはいつも顔を合わせていました。そしてその方は、私の長い育児歴の中で、心底リスペクトできるママ友さんは二人、その一人でもあります。
 だから就労実習の説明会のとき、二人で一緒にため息をつくことができました。障害があるからこそ、まだ15歳なのに、仕事のことを考えなければならないのか。
 しかし、これはまだ改善された結果です。特に名古屋は福祉に関しては、かなり先進的でした。以前は特別支援校に十分な定員が設定されておらず、地域によっては、平成の後半でも中学を出たらすぐに作業所、ということも多かったのです。
 だから、ここからはまた、今度は三年間だけではなく、末長いお付き合いになる場所を探して、同じような手間暇をかけないといけないんです。

 私は、障害のある子供の就労先を探す親であると同時に、社会的な意見を求められる立場でもあります。以前、ある特例子会社さん(大企業が障害者雇用のために作る会社です)から、お招きいただいて見学会を企画したことがありました。その打ち合わせのときに採用の際には親を見る、と言われました。この親が育てた子なら、大丈夫だろう、と思える人を選ぶとのことです。確かに。
 それを聞いた方の反応で一番多いのが、「どんな親がいいんですか」です。残念ながら。 
 何故、残念か。それを訊いてしまう時点で、望まれる親ではないからです。誰かの言ったことを鵜呑みにして、そのままに行動する人は、失敗を他人のせいにします。自分で考えないで、楽して手柄だけを手に入れようとする人は、チームワークを乱します。職場では、かなり困った人です。付け焼き刃の知識は、見抜かれるものです。
 望まれるのは、自分だったら、どんな人を採用したいのか、という想像力を持ち、それに合わせることができる人だと思います。

 何でも知っているつもりで、「どうせこうだろう」と高を括っていても、どこの面接官もきっちり人を見抜きます。
 名古屋市では、教育委員会と面談した上で、進路を二つに絞って(もちろん、最初からここ! というのが決まっていたら一つでも問題ありません)学校に面談に行きます。そして、本番の面談に移るわけですが。
 ここに、子どもを連れて行かなかった人がいます。面倒だから、家に置いて行ったそうです。そうしたら、どのようなお子さんかは本人に会わないとわからないので、連れてきてくださいね、と言われたとか。呆れられちゃったわよお、こんな人初めてだって、と笑っておられましたが。そりゃそうです。だって、「本人と保護者一名」って要綱に書いてあったもの。それを守れない保護者がいるなんて。だって、障害あるってわかってんだから、今更じゃん。
 子どものことに無頓着じゃないんですよね。むしろ、モンスター型で何にでも口を出す。
 世の中、優しい人が多いから、親のコミュニティでは来るもの拒めないけど、社会に出るにあたっては、そうは行かないことは、その後、証明されてしまいました。遅い。
「何で、もっと早く忠告してくれなかったの」
 したけど記憶にないんですね。 
 親として、子どもに対してどうあるか。社会に対してどうあるか。
 めんどくさいけど、考えておいて、本当に、損はありません。


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