2015.09.13
         旅するアキバ系
                      堀田あけみ

 シンポジウムに出席することが多いです。最近でも、「いじめ・発達障害・リストカット−普通学級の先生に知っておいて欲しいこと」とか、「発達障害について考える−医師・心理学者・家族の立場から」といったテーマで、お話ししました。複数の先生方とご一緒するので、勉強になる良い機会です。
 そして先日、自分の所属する学科でもお話しましたが。
 テーマは「女の子が好きな女の子−『カードキャプターさくら』からみるCLAMPの世界」。私が担当したパートには「女子はここから腐り始めた」というサブタイトルをつけました。こちらの話題に詳しくない方には、さっぱりわからないと思いますが、一般的にいう、オタク文化・アキバ系(この呼称も古いかな)の事柄だと考えてください。
 対外的に行う講演等とは全く異なる毛色のテーマです。
 私の勤務する椙山女学園大学の表現文化学科には、私を含む3人の教員が担当する「アニメ・マンガ研究支援プロジェクト」という、学生支援システムがあります。私は、その中でも一番、関わりが薄い教員だと思っています。新作の深夜アニメとか、ほとんど観てないもの。でも、学生が「二次創作について研究したい」といったとき、昭和の時代に出版された、おそらくは二次創作がマーケットに乗った最初の一冊を、実家から持ってくることのできる人間ではあるわけで。
 そんな私の子ども達が、そういった文化に嵌るのも当然といえば当然で。
 ついでにうちのゼミ生達に、そういう子が多いのも、宜なるかな。
 しかし、逆におとうさんからすると、俺の子なのに、どうして俺に理解のできないものに夢中になるのか、になるわけです。
 ちなみに、おとうさんの若者文化に対する無理解は、私が子どもの頃の、私の母のそれに非常に近いです。父には、無理解はありませんでした。無関心だったので。
 私にも、あまりにもそればっかりだな、という危機感はあるのです。でも、好きじゃないものは鑑賞できない。人間てそういうものでしょう。だから、舞台見せたり、大きな本屋さん連れてったり、歌舞伎連れてったり、入り口を広げようとしています。でも、結局、ゲームと二次創作の世界に戻って来ちゃうな。

 例年、アスペ・エルデの会で夏休みの感想文セミナーを開催しています。文章を書くのが苦手なお子さんの為の、ワークブックもあります。400円かな。「良い作文」を書く為ではありません。とっても苦手な子が、先生から見て、作文と言えるものを書く為のもの。良い作文用のワークブックは、書店で1200円くらいで売っています。あ、でも、このワークブックで作文の賞をもらった子は複数います。コトコも含めて。
  このセミナーで、よくいただく質問が、「親の作文みたいになってるんですが、いいんでしょうか」。親子で一緒に書くと、親が誘導しちゃうんですね。これでは、子どもの為にならないんじゃないかと。
 答えは、「いいです」。
 子どもの個性を大切にするって幻想です。個性のある子は伸ばせばいい。でも、書くことすらままならない子は、どうして書けないのか。
 感想文らしい、作文らしい文章がわからないから。入れ物がわからないから、中身が作れないのです。だから、作文らしい文章とは、こういうものだと示していけば、そのうちに、こう書けば良い、が体得されるわけです。もっとも、様々な意味において学習が困難なので、わからないこともありますが。
 何年か前に、感想文の対象図書として、東京スカイツリーの本を選んだ子がいました。順調に進んで、結びの一文というとき。この場合、いかにも最後らしい文章として、私は「これからこうしたいと思いました」を提示しています。これを最後に書くと、感想文としての体裁が整うという意味合いです。同様に、感想文として万能な例文として「この本を選んだ理由」「好きな場面」「自分だったら別の行動をとる」等をあげています。
 なかなか出てこない締めの一文。
「スカイツリーに行ってみたい、でもいいんだよ」
「嘘になるんで、駄目ですね」
「行きたくない?」
「行きたくないっす」
「東京に行ったらついでに、でも?」
「行きたくない」
「どこだったら行きたい?」
「そりゃ、秋葉原ですよ。聖地ですから」
 うむ、いかにもだ。
 この会話の直後に、流れで秋葉原に家族で立っていました。3年前だったと思います。痛車が何台も走ってて、それだけで「聖地感」がありました。でも、情報量が多すぎて疲れちゃう。大須くらいがちょうどい感じです。

 今年の夏休み、家族で行ったのは東北でした。「あまちゃん」再放送記念、岩手の旅です。自然満喫、おとうさん大満足です。
 でも、岩手まで行くのには東京を通るので、ここは、子ども達の情報がものを言う。
「秋葉原連れてってあげようか」
 興味はないけど、子ども達のペースに合わせる気はあるので、そう言ってくれるのですが、情報がひと周り遅いです。
「新国立美術館でやってるゲームの歴史の展示が見たい。渋谷パルコの期間限定特設カフェにも行けたら嬉しい。ポケモンセンターメガトーキョーは期間限定じゃないし、名古屋でも買えるものが多いから別に良い」
 なんだかんだで、全部連れて行ってもらったんですけどね。
 おとうさんの心配は、一人だけ趣味の方向が違うカイトが楽しめるかどうか。でも、美術館ではマリオの展示に一番興奮していたのはカイトかも。カフェは、サンリオの新キャラクター「SHOW-BY ROCK」をテーマにしていたので、おとうさんから、
「カイト、おとうさんと買い物して、たこ焼きでも食べるか?」
 という提案があったのですが、何故か、普段は興味を示さない深夜アニメの配信を、この番組に限っては嬉しそうに見ているカイト、
「俺、ここでとんこつラーメン食べるよ」
 ちゃんと推しキャラもいるんですよ。
 最近、話しかけられると、
「え? 俺?」
 と返してから、答えることの多いカイトなので、コトコからの、
「好きなキャラ、誰?」
 の質問にも、まず、
「え? 俺」
「お前かよっ!」
 その後、有名な「まんだらけ」にも通りすがりに寄って、「進め! パイレーツ」を全話432円で手に入れた、秋葉原に行かないアキバ系の東京は、大満足で終わりました。

 先日、偶然にもあるドラマで、こんなシーンがありました。
「カイト、好きな子いるの?」
「え? 俺?」
 カイトって、よくある名前なので。つけたときには、こんなにたくさんあるとは思っていませんでした。
 たったこれだけで、めちゃくちゃ笑える私の人生は、結構良いと思います。




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