2015.08.12
 7月の半ばには、地元の神社の夏祭りがあります。おとうさんは、蛍の取材の真っ最中で、いつも不在。今年はいたけど、行く気は全くありませんでした。だから、子ども達と4人で行くのが、毎年のお約束。「祓え葭」で厄を落として、大茅の輪をくぐった後、お鈴で巫女さんに、3人がご祈祷してもらいます。
 それが、今年はどうもカイトと二人きりになりそうな勢い。徐々に減って行くんだろうと思っていたし、それを待ってもいたんですが、いきなり二人きりかあ。本音を言うと、寂しいです。でも、家族以外の人と出かけるのは良いことですから。
 お祭りは、三日間。水・木・金。水曜日は私の帰宅が遅い日なので、つきあえません。金曜日は子ども達の空手があります。だから、約束は木曜日。その辺、よく弁えています。
 でも、台風が来ました。ゆっくり進む台風が、木曜日と金曜日に西日本に上陸の予定。非常勤も含めて4限がっつり授業したから、疲れてる、なんて言ってられません。厄は払っとかなきゃ。コトコに浴衣を着せる間も無く、湿気一杯の強風と曇天の下、お参りとご祈祷にだけ、と4人で家を出ました。
 考えることはみんな同じですね、いやあ、混んでること、混んでること。縁日を除けば、地元で一番のお祭りです。年に一度だし、夜間だし。小学校・中学校・自治会のパトロールも出ます。夜店も沢山、櫓の周りには盆踊りを踊り狂うじーさんとばーさん。絵に描いたような夏祭り。盆踊りの曲が「郡上音頭」「恋するフォーチュンクッキー」「一休さん」「なごや囃子」「ようかいたいそう第一」とカオスなのを除いたら。
 こうなると、お参りだけでは帰れません。
「なんか食べていい?」
 これは、コトコの担当。今日は晩御飯を普通に食べてきたので(いつもは、たこ焼とか食べられるように、少なめにします)、デザートだけね。
「じゃあ、かき氷」
 コトコはこれに決まっています。お兄ちゃん達は結構迷う。でも、今年はすんなり3人ともかき氷、シロップかけ放題に決定。
「遊びたいです」
 こちらは、カイト担当。食べ物同様、発言者だけが恩恵を受けるわけではありません。
「なんで遊びますか」
「さめつりがしたいです」
 コトコは当然のように自分も行くし、マナトは、
「みんながやるならしょうがないなあ、お兄ちゃんもやるか」
 で、それぞれ弓矢とナイフ(引っ込むやつ)、日本刀をゲット。武装集団と化して帰路につきます。
 この日、コトコはカイトに、ある挑戦をしました。
「ねえ、どっちが先に『カイちゃん』『コトちゃん』て声かけられるか、競争しようよ。多分負けるけど」
 これは、カイトの顔の広さによるものです。コトコは、一般的な女の子の範囲(平均より狭い、多分)でしか、友達はいないけど、カイトは同学年全員が知り合いみたいなもんだし、先生方の間での認知率は異様に高い。
 でも、勝者は意外なことに、マナトでした。最初から勝負の仲間に入れてもらえなかったのは、一番友達が少ないからと、高3ともなると、地元の行事に顔を出さない子も増えるし、ということなんですが。
「おー。オハラ、久し振り」
 と声をかけられ、楽しそうに語り合って、
「誰?」
 と訊いたら、
「知ってる子。思い出もある。でも、名前が出てこない」
 昔から、人の名前覚えるの、苦手だったもんな。
 結局、木曜日も金曜日も、夜は辛うじて雨が降ってはいない、という状態でした。もちろん、我が家は外出禁止。台風がそこにいて、注意報がいくつも出てるのに、夜間に子どもを外に出す親がおりますかいな。意地なのか、やけくそなのか、強風に浴衣をあおられながら、歩いてる人もいましたが。
 きっといつか、二人になり一人になる。それは、わかっていました。現実になりそうだった今年、猶予期間をいただいて、来年から肝に命じます。
 今はまだ、君達はここにいる。
 その事実に心から感謝しつつ。



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