2015.06.13
           幸福の食卓
                           堀田あけみ

 このメルマガも、カイトが幼稚園の頃から始まり、三人兄妹のぶっ飛び具合、母の能天気っぷりをいろいろおしらせしてきましたが、我が家で一番の困ったちゃんは、おとうさんではないかと思います。本人は一番大人で、一番常識人だと思っているところが驚きですが、ま、変だって自覚があったら、変人じゃないもんな。
 さて、いろいろなものに凝り、すぐ飽きるおとうさん、今は低糖質クッキングに夢中です。いや、それは違うな、と本人は言うでしょう。アケミちゃんが料理しないからじゃないか、と。料理の他に、僕にだってしたいことがあるんだよ。
 いえいえ、子ども達に料理を作って食べさせるのは、私の生きがいでしたよ。それを、任せておけないって言い出したのは、おとうさんです。

 話をきちんとしたら、本当に長くなるので、端折って解説すると、ことの始まりはおとうさんの減量でした。120kgから減らすこと30kgとちょっと。凝り出すと、とことん行くのがうちのおとうさん。食事中の糖質を極力なくそうと言い出しました。その後、いきがいであるお料理作りを手放したくないという私に吐いた暴言の数々は、いくら頭に血が上っていたとはいえ、ここで書いたら多分、おとうさんは本物の下衆と認定されると思うので、自粛します。
 とりあえず、今はおとうさんが三食とおやつ、糖質の管理しながら作ってます。当然、既成の調味料等はほとんど使わない。ご飯は玄米。麺は特別なパスタのみ。パンは、ふすまパンをわざわざ買いに行くか、自分で大豆粉を使って作る。このために、本を沢山買いました。
 
 あ、私は一日一食も強制されてます。本人がそれで痩せて、体調も良くなったので、私もするべきだと。おかげで、一日中体調が優れません。でも、優れないというと、私がいかに悪い人間だからそういう目に遭っているのかの説教が始まるので(麻原彰晃が、カルマの深い人間は癌になると言ったのと同レベル)言いません。
 一日一食だけなのに、おとうさんが本を見て作るイタリアンみたいなのばかり食べてるので、満足しません。基本はスープ、子どもたちに沢山野菜を食べさせたいから、それにはスープが一番。
 そもそも今回の食生活大改造には、家族全員が基本、反対でした。おとうさんは、栄養的に優れた(と、おとうさんが信じ込んでいる。一日一食とか、炭水化物全廃が目標とか、まともな人間は言わない。おとうさんから見ると、これに賛同してくれる人たちだけがまともで、一日三食食ってる人は頭がおかしいらしい)食事をさせたいと熱望しているけれど、私たち家族にとって(とりあえず、おとうさんは抜きな)食卓は幸福の象徴で、美味しく楽しくするのが食事だから。説教されて、能書き聞きながら、もそもそ食べるもんじゃないから。
 でも、従わないとうるさくて鬱陶しくて、何もできなくされるので、作ってもらってて、食卓の雰囲気がものすごく微妙。
 おとうさんは、一日中ごはんを作っています。仕事が進みません。当然愚痴も多くなります。ときにはアケミちゃんも作ってよ、と言います。作ってよ、僕がレシピ教えるから。主婦でしょ。
 作るかよ。
 私は私の作りたい食事を作ります。誰かのレシピなんかいらん。
 それに、何もかも自分でやるから、好きに食事作らせてって言ったんだから。

 気の毒だとは思います。今日日、ここまでしっかりごはん作る人って主婦でも少ないと思います。でも、子ども達の反応は今ひとつです。コトコなどは、ものすごく不機嫌に食べてることが多いです。マナトは弁当に手をつけない日が多くなりました。だからおとうさんも、ムキになります。家族のためにこんなに頑張ってるのに、報われない自分ってかわいそう。
「今日の人参のスープと、昨日のほうれん草のスープ、どっちが美味しいかなあ」
「にたようなもんじゃね」
「じゃ、明日はジャガイモにしよう、きっと好きな味だと思うよ」
「好きにすれば」
 ほら、さすがに気の毒になるでしょ。
 でも、どんなスープを作っても、子ども達は満足しないと思います。だって、私たちが一日の終わりに食べたいのは、生クリームがたっぷり入ったスープじゃない、お豆腐やわかめの入った、鰹や昆布の濃い出汁で作るお味噌汁だから。

 何十冊ものお医者さんによる栄養や断薬の本に埋もれて、おとうさんは今日も一日中、素敵なごはんを作ります。
 例えば、

朝  自家製ヨーグルトとバナナのスムージー  自家製人参ジュース
   ミニキャセロールに入った野菜とウインナー
   ふすまパンのサンドイッチ(ハム・卵・チーズ)

昼  朝と同じサンドイッチ  チキンの糀焼  卵焼き チーズ 
   やみつきキャベツ

晩  チーズトースト 高野豆腐をつなぎにしたハンバーグ 野菜サラダ
   セロリのポタージュ

 ル・クルーゼの新しいお鍋と食器も買ったんです。素敵なごはんにならないわけがありません。写真をフェイスブックにあげるたび、評判も上々だそうです。
 でも、炭水化物と甘いものを悪と決めつけて、体に良いものだけを食べなさい、と解く幾多の書物の作者さんたちに私は尋ねたくてたまりません。
 あなたは、本当に幸せな食卓を知っていますか。
 子どもの頃に、母親の料理を幸せな気持ちで食べていましたか。 

 そろそろ来月のカード請求の時期です。
 こだわり食材を買い続けたおとうさんの請求額は幾らでしょう。
 おとうさんは、手抜きで悪い材料使った、私の料理をバカにしています。そんなものしか作れないなんて、大した主婦じゃない。
 カードの請求額見て、
イオンで食材買うのは、手抜きではなく現実なのだと少しでもわかってくれたらいいと思います。

 でも、おとうさんには別のこともわかったようです。
「毎日のごはんがこんなに大変だったなんて、アケミちゃん、20年間、ずっとこれやってきたの」
 それどころか、掃除・洗濯・ゴミ出し・子どもの世話。
「六時に起きて、一生懸命、朝ごはんとお弁当作ると、ふらふらだよ。その後、二度寝すると生き返る」
「私は出勤しますけどね」
「ずっと感謝してるよ」
「されてる実感ないけどね」 
 私が大変だったって、少しでもわかってくれたならいいのかなって思います。
 どうしてそんなに頑張れるのって、言われることもあるけど、私が頑張らないと、オハラ家は潰れてしまうので。
 誰だって、同じくらい頑張るよ。私の立場になったら。もっと頑張ってる人だっていっぱいいるし。

 おとうさんへの不満たっぷりなコトコには、ひどいおとうさんとは、朝からロハスな手作り飯への賛美を強要するおとうさんではないと諭しています。
 飲む・打つ・買うをしないんだから、非難されるほどではないと思うの。



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