2015.05.10
       ゆっくり、だけど確実に
                             堀田あけみ

 原稿が遅れてしまいました。ものすごく早く準備してたのに。いきなりおとうさんが、我が家のパソコン総取り替えして(事情は例によって話せば長くなるので省略)、データがどっか行ってしまいました。腹たつことですが、大学の仕事の大きなデータは消えていかなったので、まだ、これで済んで幸いと思わなければなりますまい。
 新しい学年の始まりです。マナトはクラスも担任の先生も同じ、コトコはクラスは変わったけれど、担任の先生は同じ。という、安定の始まりに較べて、何もかも新しい世界に踏み込んだのがカイトです。
 義務教育が終わり、養護学校(名古屋市では、特別支援学校ではなく、こちらが正式名称のようですね)の高等部に進学しました。ということは、電車で遠くに行くことになります。名古屋市内の養護学校は、どこも行きづらいところにあるんですよ。どうしてでしょう。それから、今までは、ありがたいことに、普通級の子や、同じクラスの軽度の子にいろいろ助けてもらって来たのですが、もう、普通級はなくて、軽度の子は、高等養護学校や産業科に行ってしまいました。むしろカイトが支える側かも。だから、新しい環境は、今までにない大きな変化をカイトに持って来て、それは小さな負担ではないと思うのです。
 でも、カイトは軽々とそれを受け入れているように見えます。私は、子ども達を贔屓目で見ないように努めてきました。できるだけ、客観的に見るように、そしてがっかりしないようにです。でも、それは過小評価につながっていたのかもしれません。私からは、楽勝で一人通学できそうなカイトですが、きっといろいろな関門があり、しばらくは付き添いが必要だと思ったし、だから、おとうさんに4月の予定は空けてもらいました。
 名古屋市内の養護学校は、どこも行きにくいところにあります。行きにくい、の定義は、本数が多くて乗りやすい地下鉄の駅から遠いということ。市バスだったら近いんだけど、カイトは地下鉄を選択しました。体を鍛える為には、駅から1kmは、むしろ体力作りに貢献してくれる味方です。マナトの、地下鉄の出口から三歩、というのがむしろどうかしている。カイトの利用する路線は、沿線に多くの学校を持っているので、朝は本当に混むのです。
 でも、三日で付き添いやめました。だって、一人でどんどん行っちゃうんだもの。
 やめたから、キッズケータイ買って、見守り機能つけました。毎日、決まった時間におかあさんのスマホの液晶の上で、カイトの印は学校まで動きます。
 ゆっくりと、でも、間違えることなく。
 
 もしかしたら、戸惑って音を上げかけているのは、おかあさんの方かもしれません。新学期は、記入する書類が多いのはわかっていました。でも、本当に多い。様々な施設の見学や説明会、保護者会。家庭訪問はないけど、個人面談。金曜日には、体操服一式と、歯磨きセットで鞄をぱんぱんにして帰ってきます。マナトの分もあるし、まず一度、洗濯機回さなきゃ。中学のスクールランチは、学校でお箸が出たけど、小学校以来のお箸袋も再登場です。もうすぐ、部活動も始まります。
 おかあさんも負けていられないから、頑張ります。
 とりあえず、本山の駅に早く柵つけて欲しいな、名古屋市さん。学生がこぼれそう。



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