2014.05.09
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NPO法人アスペ・エルデの会「楽しい子育て応援団」です 2014、5号
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堀田あけみ先生の「子育て応援エッセイ」 第96回
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◇◆拾う神さま
オハラ家は、長期休暇になると旅行に行きたくなります。宿題も無く、気候も良い春休みは外せません。今年は、マナトの体調が優れず、見送ろうかと思っていましたが、本人が「むしろ行きたい」と言ってくれたので、やっぱり決行しました。とは言うものの、毎年、3月の最終日曜日に空手の愛知県大会が行われていて、これが終わるまでは行けません。おかあさんの大学の新入生ガイダンスの開始時期を考えると、行ける期間が本当に限られて来ます。でも私は、胃がきりきりするような試合を終えて、解放され切って出発するのも好きです。桜の時季にも合いますし。この習慣のお蔭で、随分といろんな場所の桜を見ました。
今年は、コトコの発案でまず、出雲大社に行くことにしました。そこまで行くなら、おかあさんは一度、子ども達と一緒に行きたかった厳島神社に。折角近くまで行くんですからカイトの為に、アンパンマン列車に乗って、やなせたかしの記念館にも行こうかと思ったのですが、流石に遠く、神戸に新しく出来たアンパンマンこどもミュージアムにしました。
旅行の打ち合わせは、おとうさんがカナダにいるときにメールでされます。毎年、三月はカナダ取材なのです。家族と離れたおとうさんは、この時期、家族の為ならなんでもできる良き家庭人であると、自分を錯覚しています。ある意味では、年がら年中、錯覚していますが、この時期、特に顕著に。なので、なんでも発案を呑んでくれますが、帰国して現実に家族と生活し、実際に旅に出る頃には、不平不満が出て来ます。おとうさんは、無宗教主義なので、神社仏閣が苦手です。歴史に興味無いし。そもそも私にとっては最低限の常識であることも知らない。平将門が源平合戦の関係者だと思ってたり。それらを巡るは、私の変な趣味だと思っているし、子どもがそんなものに興味を持つわけは無いと決めています。コトコが、「超楽・古事記」というマンガを読んで以来の記紀オタクだなどということは知る由もなく理解したくもありません。コトコは、「花子とアン」観て「赤毛のアン」に嵌る子、くらいにわかりやすくないと理解出来ないのです。だから、子ども達が神社仏閣に行きたがるのは、本人達の意思ではなく、おかあさんの御機嫌取りだということになっています。
今回の目的の一つには、出雲の歴史民俗博物館も入っていたのですが、おとうさんはカイトとチームを組んで、ろくに見ないでロビーで眠っていました。カイトは、最近、i
Padがあれば、どこにいても退屈しませんから特に相手する必要無いし。だから見逃してしまうのです。銅鐸や銅矛の展示スペースでの、マナトの目の輝きを。
「うわあ、本物がこんなに」
あんなに嬉しそうな顔、久し振りだっていうくらい。
事前にも、ほんとは興味無いんだろって話になって、「あるよ」って答えるマナトに、
「だったら、どういう神社かちゃんと説明してみろ」
どういうって、そっちこそ、どういう設問だよって絶句すると、
「言えないんだろ、興味なんかないじゃないか。おかあさんに合わせてるだけだろ」
「どんな神社なんですか、おとうさん?」
私から訊いてみたら、
「知らない。興味無いもん」
日本人として恥ずかしいです。
マナトの通う高校はプロテスタントなので、授業にも聖書の時間があります。そこで、今まで漠然としたイメージしか無かったキリスト教について、学ぶ機会を持ったのはマナトにとってよいことだったと思っています。世界中で最も多くの信者を持つ宗教ですから。学校が信仰を強要するわけではないので、そこでいろいろ考えるのも良い経験でしょう。マナトの場合、それは多神教で育った人間が一神教に出会ったという意味が一番大きかったように見受けられます。
神在月には八百万の神様が来る出雲大社でマナトが感じたこと。
「やっぱり、キリスト教には向いてないな、自分。カンタベリーのカシードラル行ったときは感動したけど。あそこは、大好きで、また行きたい。でも、神様はどこにでもいて欲しいと思ってる。石にも土にも木にも水にも。一人しかいなかったら、捨てる神がいても拾う神いないもん。それに、神社とかお寺とか来ると、やっぱ安心するわ」
おとうさんはというと、
「まだ見るの? 参道行って、ぜんざい食べてていい?」
どうぞ。
おとうさんの大好物、ぜんざいって、もとは「神在餅」っていって、神様の食べものらしいですよ。
結果的には、ここで今まで食べた中でも最高に美味しいぜんざいにであったので、おとうさんにも良い旅行になったようです。きっとお餅の中にも神様がいて、おとうさんを拾ってくれたんだと思います。八百万もいるんだから。