2014.04.10
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  NPO法人アスペ・エルデの会「楽しい子育て応援団」です 2014、4号

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     堀田あけみ先生の「子育て応援エッセイ」 第95回
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◇◆1/2 と 2/5
                          
 近頃の教育現場は、子ども達一人一人に、意思を表明させることがお好きなようです。小学校の卒業式も多くの学校で、卒業証書をもらう前に、子ども一人一人が将来の夢を語るという形式をとっているみたいで、うちの学区でもそう。マナトは株式会社ポケモン(念の為に書いておきますが、これ、実在する会社ですよ。世間に出回るポケモングッズはここが販売しています)に入って、子どもに夢を与える仕事をしたい。カイトは、食べ物屋さんになりたい、でした。コトコは今からぶつぶつ言っています。罰ゲームかっ、と。人前で言わせなくていいじゃん、放っといてよ。
 そんなコトコに、既に試練が。これまた、最近になって急に流行り出した「1/2成人式」。十歳の子どもの、意思表明です。二十歳の自分は何をしていたいか。4年生の3学期、授業参観はこれで決まりです。だから、なんで人前で言わなきゃいけないんだよ、今日日の子どもには、ひっそりと夢を育む権利もないのか。コトコの不満を要約してみました。何分、おにいちゃん達のときにはなかったことなので、コトコの怒りの根は深いです。
 十歳なので、社会のシステムがよくわかっていません。だから、二十歳の自分が医者になってたり、学校の先生になってたりします。そんな中、コトコはもしかしたら、一番現実的な発表をしたのかもしれません。「空手の全日本大会で入賞したい」。国際で優勝でないところが素晴らしい。今のまま、進んだら、実現出来そうだ。流石は、小学校を卒業する子ども達の中で、唯一企業名を出して夢を語った男子の妹です。
 そんなコトコにもう一つの試練が。
 三月、卒業シーズンですが、ゆっくりくらぶからも、卒業生が出ます。今年は会員からも出ましたし、毎年、学生ボランティアのお兄さん、お姉さんが卒業していかれますね。今年は、三人のお姉さんが卒業しました。ずっと、コトコについてくれたお姉さんもです。
 学生は四年間在籍したら卒業して行くもの。それは、私達、職員にとっては、余りにも当然過ぎる流れです。だから、コトコがそれを理解していない可能性には、思い至らず。卒業生へのメッセージを求められて、コトコは初めて、お姉さんがいなくなることを知ったのです。
 そもそも学生ボランティアが何なのか、コトコは理解しておらず、どうもボランティアと言うお仕事に就いている人(語義を考えると、非常に大きな矛盾を抱えますが)だと思っていたようです。おかあさんが大学の先生、おとうさんが写真家であるように。だから、ずっと側にいてくれるものだと。でも、そうじゃないんだよ、との説明が為されたとしても、その喪失感は埋め合わせることのできるものではありません。
 コトコにとって、お姉さんは六歳から十歳までを一緒に過ごした人なのです。プリキュアに夢中だったおちびさんが、パズドラを使いこなすナイスバディの女子になるまで。
 私にとっての、四十五歳から四十九歳なんて昨日から今日に来たみたいなもの。冷蔵庫が壊れて「そんなに古くないのに」と憤慨したら、カイトが生まれた年に買ったんで、もう十年以上使ってたなんてこともありました。家電の寿命は七年だとか言いますから、むしろ頑張ってくれた方です。更に、これをついこの前の話としてネタにしようとしたら、既に三年前でした。もう、時間の経過、ごちゃごちゃです。大学生のお姉さんにしたって、十八歳から二十二歳までは大きな変化のある時期です(特に、うちは女子大のせいか、初々しい少女として入学して来た子達が、卒業パーティーで見事なレディーとして振る舞っているのが印象的で)が、四年間は結構早い。早かった記憶があります。高校三年間より早いと感じた子も多かったようです。二十二年間のうちの、4年ですもの。そして、最初から四年経ったら、ここからいなくなると知ってのことですもの。
 でも、コトコにとっては、ずっと一緒にいてくれると思ってた人がいなくなるだけではなく、人生の4/10、約分して2/5を一緒に過ごした人が去って行く経験なわけで。とてつもなく、深い、重い経験だと思います。
 コトコは、ゆっくりくらぶに行くのが大好きでした。シスターグループで、月に一度遊ぶのが楽しみでした。でも、その楽しみが半分に減るといいます。お姉さんがいなくなったら。次のお姉さんに、その穴は埋められない。マイお姉さんは一人しかいないから、というコトコは正しい。
 あと少ししたら、コトコは知るでしょう。大好きなお姉さんの穴はそのままに、今度は新しいお姉さんと、幸せになる関係を作っていけるんだと。
 そして、もっとずっとしたら、更に気付くでしょう。十歳の女の子が、これほど別れを辛いと思える相手に出会えるのは、とても幸運なことなのだと。
 今は、布団の中でお姉さんを思い出して、繰り返し泣いてしまうべき時季なのです。泣いていいよ。
 またすぐに、春は来るから。



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