2013.11.08
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NPO法人アスペ・エルデの会「楽しい子育て応援団」です 2013、11月号
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堀田あけみ先生の「子育て応援エッセイ」 第90回
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◇◆発達障害だって中二病
最近、カイトは悪い子です。
もう、悪さの質が違います。
言っても言っても効果なし。
聴覚言語の処理が悪いのはわかっています。でも、字で書いても、絵で描いても、行いが改まりません。こうなると、風が吹くと桶屋が儲かる方式で、家族間の負のループが延々と続くのですが、こちらのエッセイでもさんざん書いて来た気がするので、繰り返しません。
で、性懲りもなく繰り返される彼の悪行を挙げますと。
妹の近くで、嫌いな曲(カイトオリジナル)を鼻歌で歌う、もしくはiPadのキーボードの機能を使って弾く。妹を指差して、「クッパジュニアだ」という。「大嫌いだ」も言う。構って欲しいんだろうから、無視しようということになり、頑張って無視していると、蹴って来た。私が止めるまで、何度も。コトコが泣きながら訴えます。
「やり返したい」
許可しました。ここで、じっと耐えさせるのが、良い親なんでしょうか。相談に行ったら、そう言われるんでしょうか。
私が十歳だったら、それでも耐えろと言う親とは縁を切りたい。
「一発だけ」
言うなり、飛びかかって、左拳で腹、右拳で脇腹、右足で飛膝蹴りがほぼ時間差無しで出ました。一発って、コンボ技か。私も、スパーリングの相手をすることがあるのでわかりますが、多分、彼女の見た目の体格からは、想像もつかない重たい衝撃がきた筈です。
結局、損をするのは自分だってわかったかな。
いや、きっとそんな学習能力無い。
だって、流血騒ぎ起こしてから、しばらく治まったかと思ってた壁に頭ぶつけるのが、また始まったもん。
これも、いらいらするから、カイトの目の前で、私が壁に思いっきり行きました。
「やめて、やめて、お願い、やめて」
懇願するカイトに、
「ずるい! カイトばっかり。おかあさんも、ごっちんするの!」
「やめて、もう、ごっちんしません、やめて」
結局、爆発してるのは、更年期の母親か。
不満があると、宿題のプリントを破る。濡らす。丸めて捨てる。
んでもって、宿題が駄目になっちゃったと泣く。
まったく、だれが拾って伸ばしてテープで貼って、乾かしてると思ってるんだよ。
服を濡らす。切るのがなくなったぶん、ましか。
コトコの大事にしているものを、隠す、壊す。
学校では、作業訓練で巫山戯て、わざと間違える。
「ぐにゃぐにゃ文字」と称して、波打った字を書く。
まあ、こういったことは良いんです。良くないけど、カイトだけの問題と言えるので。一年生の女の子に、繰り返し、意地悪をすること。
担任の先生方は、聴覚過敏のせいではないかと、解釈していらしたようです。新しい環境が苦手で、よく泣いているので、泣き声への反応だろうと。今までなら、それで間違い無いでしょう。
でも、今回は相手が違います。
カイトのストライクゾーンのど真ん中を行く、可愛らしいお嬢さんです。おまけに、奴は中二です。
自分に注目して欲しくて、素直に好意を表せなくて、こっちを向いてとも言えなくて、目立つことして、意地悪して気を引こうとして、直球でそうできなくて、不思議で痛い行為に走る、おまえは中二病か!
だから中二だね、うん。
と、お伝えしておきました。只、音に反応しているわけではありません。彼も、感情は発達しているのですよ。
担任の先生は三人、若い女性もいます。そちらの先生が、上手く二人のバランスをとってくださっているようです。
先日、お嬢さんは、カイトに反撃をしたそうです。筆箱で、ばしん、て。だから私は連絡帳に書きました。
「素晴らしい。嫌なことは嫌だと伝えるのは、大人になるのにとても大切です。カイトを練習台にして、しっかり身に付けていただけたら幸いです。」
カイトが荒れると、一番嫌なのは、自分の孤独が実感されることです。結局、私の考えていることを、夫も実家の母も聞く気がない。理解する必要が無いと思っている。誰にも支えてもらわなくても、大丈夫な人だから。気を遣う必要がないから。それがひしひしとわかるので、カイトを憎いと思うのです。カイトさえいなければ、気付かずに済んだのに。私は、夫とも親とも心が通じていないことに。
フェイスブックを始めた夫とは、どんどんコミュニケーションが疎遠になりました。お仕事だからって、食事中もスマホ見ているもん。私の話も聞かないままで相槌うってるの知ってるから、
「ほんとは、私のこと、もう好きじゃないですよね。離婚すると、食べて行けないから、一緒にいるだけですよね」
って言ってみたら、「うん、そうだね」ってにこにこしながら、答えました。面白いので、何度もやってみたけど、全然、気付きません。気付いてのってくれてるなら、見直します。
マナトとコトコは、完全に私の味方です。子ども達に、ここまで大事にされてるって、私は幸せな母親だと思います。でも、だからこそ、甘えきれません。って、甘えちゃ駄目だろ、頼っちゃ駄目だろ、こっちが親なんだから。
今になって、三十年前、私の作家としてのデビュー作がドラマになったときの主題歌の歌詞が身に染みます。
「わかってるんだ人間は 誰もひとりきり
わかってるからほしいんだよ 友と呼べる奴」
マナトもコトコも戦友だ。一緒に戦って来た。カイトもある意味そうだな。
だから、必要。
人生に必要なのは最後は友なんだと、気付きました。
家族も最後には友として、対等な存在になれたらいいと思います。
でも、私はプレッシャーをかける、いわゆる「毒親」の要素を多分に持っているので気をつけなければ。油断すると、関係良好な子ども時代を経た末に、一生、母子としての呪縛の中で生きて行かなければなりません。私のように。
そして、本当に大切なことは、孤独を肯定して完全に受け容れることでしょうね。孤独であることの再認識なんかに動じない、強い心を持つこと。難しいな。自分以外の誰がいなくても生きて行けそうなカイトですら、完全にこの域には達していなさそうですからね。
おとうさんは、カイトが荒れる原因を考えます。突き止めたら、荒れなくなると信じています。進歩が見られません。
赤ちゃんマナトが泣くのには、理由がある、絶対に。突き止めて泣き止ませるのが母親の仕事だ、それができないのは、駄目な母親だと言っていた頃から。その後、赤ちゃんなんて、理由がなくてもなくもんだって学習した筈なのに。カイトだって、パニックになったら放っとくしかないって言ってたのに。
中二の男子の心に、行き着く先なんてあるもんか。何をしても、どこにも安住出来ないから、暴れるんだろうが。おかあさんにはわかるよ、気休めじゃない。更年期だって似たようなもんだからだ。
今度こそ、私はカイトが知的障害を伴う発達障害で良かったと、心から思いました。彼に出来る表現は、苛立ちの表現は、とても稚拙です。一人で出歩くこともありません。
悪い子カイトを見ていると、こいつ、健常だったら、バイク盗んで窓割って回るレベルだ、と思いますもん。
ただ、変わり続けるのが子どもですから、人ですから。
油断しないで、彼の動向を見て行きたいと思います。