2013.06.10
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  NPO法人アスペ・エルデの会「楽しい子育て応援団」です 2013、6月号

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     堀田あけみ先生の「子育て応援エッセイ」 第85回
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◇◆高い授業料

 数年前から、コトコはカイトの天敵と呼ばれるようになっています。
 どっちもどっちの関係です。
 小さい頃は、いつも手をつないで歩いていたのにね。そんなセンチメンタリズムは、極力封印の方向に持って行きます。そんなものに囚われていては現実と向き合えませんもの。

 カイトは、ゆっくりくらぶの学習会が大好きです。コトコも好き。きょうだいグループでお友達に会えるから。
 4月のこと、学習会に向かおうと降りた、地下鉄の駅でコトコが大事なものを落としたのに気付きました。大好きな「ルルロロ」(「くまのがっこう」のジャッキーの妹キャラです)のタオルケースを落としたのです。
 コトコは本当に意地っ張りです。自分が絶対正しいと思っていて、譲ることを知りません。ジーパンの前ポケットにものを入れることを私は禁じています。落ちるから。実際、そこに入れたハンカチやティッシュは、マンションを出る前に、既に落ちていることも珍しくないのです。なのに、そこに入れておいた。理由は。
「私が落とすわけがないから」
 いや、自分では言わんよ。むしろ、要はそういうことね、とまとめると抗議する。しかし、結局そう言うことだ、彼女の言い分は。
 わあわあ泣く彼女を置いて、駅長室に遺失物の手続きしに行ったら、コトコが一発殴られてました。
 おめーのお蔭で、楽しみにしてた学習会に行けねーじゃねーか、ということらしいです。
 無事にみつかって、学習会にも20分の遅刻で済んで、この日は、イオンでマナトと合流、ゲームセンターでマリオカートして帰るだけの筈でした。

 ここのところの私の睡眠不足は確かです。いらいらしていました。
 カイトが同じことを繰り返し訊く回数が多くなり、それに輪をかけてもいました。同じ答えを繰り返すのがストレスで、3回くらい同じ答えをした後は、
「言ったから。今、3キロって言ったから。二度と訊かないでください」
 というのも、お約束になっていました。ちなみに、今はどこかとの距離を訊くことに嵌っています。
 特に嫌なのが、「今日の晩ご飯何」。朝から訊いて来る。「まだ決まってません」。
 先の予定を知りたいだけなのは、わかっています。でも、朝食の直後に、その日の昼食と夕食と、翌日の夕食(平日だと朝食は同じパターン、昼食はスクールランチ)を矢継ぎ早に訊かれると情けない気持ちになります。お前の人生は、飯だけか。
 だから、イオンのフードコートでおやつを食べながらの、「今日の晩ご飯何」にひどい苛立ちを覚えました。
「うどんって言った! もう、2回言ってる! 二度と訊かないでください」
 それから、普通におやつを食べて、晩ご飯の材料を買おうとしていたときです。気が付くと、カイトが頭から相当量の血を流していました。
 嫌なことがあると、壁に頭をぶつけます。でも、口で「ごっちーん」といいながら、そっとぶつける「なんちゃって自傷」です。
 どうも、軽くぶつける予定が店名のロゴのレリーフに、絶妙な角度で食い込んだようですね。これだけ血が出てると、痛そうなんですが、本人は感じていないようです。聴覚は過敏だけど、痛覚は過鈍なんだよね。ただ、周囲が引きまくってる。本人は、血だらけのシャツと手についた血を見て、とりあえず、手の甲を目に添えながら、すんごい棒読みで言ってみました。
「えーん、痛いよー」
 わかりました。痛くないんですね。でも、血が出ているときには、痛いと泣くものだという学習はちゃんとできている。偉いものです。
 でも、血は出まくっているので、ほっとくわけにもいかんだろうと、マナトとコトコを二人で帰宅させて、お店の方の協力で救急病院までタクシーで行きました。本人が平然としているので、こちらも焦る気がなく、無関係の方が心配して下さっているのに、私は淡々とことを運んでいました。おとうさんいなくてよかった。騒いでたと思う。
 縫合も淡々と。痛くはなかったようです。泣きませんでした。
「あっいっとぉー、ゆーきだけーがっ、とぉーもだぁーちーだー」
 熱唱して縫合が乗り切れるくらいなら、やすいものです。
 お約束のネットを頭に被せて帰宅。
「明日から、カイトのあだ名、メロンな」
 残念、翌月曜日の朝、再度通院したので、ネットは取ってもらっちゃいました。
 それから、木曜日に抜糸、土曜日に傷口を確認して、通院終了。

 後日、マナトが言いました。
「流石にあれから、カイト、何があっても壁に頭はぶつけないんだよな。やり始めると音が気になるから、怪我してよかったかもしれないって言ったら、おかあさんは怒る?」
 怒るもんですか。
 高い授業料だったけど、これでカイトが壁に頭ぶつける以外の感情表現、ストレス解消法を見つけてくれたのなら、惜しくありません。
「いいじゃん、カイトの治療費は障害と児童、ダブルで只でしょ」
 生活費出さない人の意見は気楽でよろしいですな。
「そういう問題じゃないよ、精神的なことだって。おとうさんは、ほんとにわかってないな」
 うん、高校生の方がわかっている。
「まったくです」
 小学生はわかっていないと思うが、言うだけは只だ。
 うーん、半分当たってるかな、マナトの言い分は。
 時間もかかったし、精神的に消耗したのもあるけど、救急病院て、当然ながら自宅じゃなくて、怪我したところの近くなんだよね。おとうさん不在の間の事故だっただけに、行き帰りがタクシーで。
 やっぱり、金銭的にも高かったんですよ。




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