2011.06.01
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 NPO法人アスペ・エルデの会「楽しい子育て応援団」です 2011、6月号

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 前向きな考え方に触れると、元気を取り戻せる時ってありますよね。
 子育て応援エッセイには、元気の素が詰まっています。
 ホッと一息つきませんか?

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    堀田あけみ先生の「子育て応援エッセイ」 第61回
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◇◆魔王というには
                        

 最近、カイトは悪い子です。
 何度目かの魔王降臨。
 ところが、今度の魔王、妙にしょぼいんだな。
 何度、止めなさいって言っても、従ってくれないのは今まで通り。思春期のマナ
トは、とっても苛々してます。
 でも、やってることが、頻繁にズボン下げる(パンツ込み)だからな。魔王という
より、小悪魔ですね。
 でも、カイトには、ほんとうに、こちらのいうことがわかっていないんだろうなあと
思います。日常の会話って、「これ」「それ」「ちょっと」「ねえ」で済んでしまうこ
とも多いんですよね。それに表情や仕草を加えたら、それほど不自由はしません。だから、
カイトも日常生活の範囲内では、ちょっとしたおつきあいだと言語に障害のある子と
認識されないこともあります。
 でもね、国語のプリントでわかります。この子には、「てにをは」も、まだ理解でき
てないんだって。今、理解できてないってことは、一生理解できない可能性だってあ
ります。
 カイトに、母国語はあるんだろうか、とときどき考えます。
 ずっと外国語を喋ってる感覚なんじゃないだろうかと。
 調子良く会話できてると思ったら、ある限度を超えたところで「わからない」。彼の
「わからない」は劇的で絶望的なのです。言い方が。だから、ほんとうにわかんない
んだろうなと思う。
 それは、外国で特に不自由無く過ごしていても、困ったとき、あ、こんな感じ?っ
て思うものです。例えば、郵便局で不当に高い料金を請求されて、おかしいよ、こ
れって抗議して、「何がおかしいと思うわけ」って言われて、「普通に、船便の小包、
一つ一万円ってないでしょ」を、どう説明したらいいのか。で、どうにか説明したと
ころで、相手の反論がまるでわかんねえ。これ、カナダのフランス語圏での実話で結
局、英語のわからない局員が、適当に言っただけっておちなんだけど、「すみません、
うちの局員が、いい加減な仕事しちゃって」っていう言いわけすら、ろくに聞き取れ
なかったんですね。フランスなまりの英語でよくわからんことまくしたてられて、わ
かんねえ私が馬鹿なのか、こいつの英語そもそも下手なのか、それとも、もしかして
妙に聞き取りにくいこれはフランス語か、と混乱していたときの心細さ。
 カイトはずっと、その混乱の中にいるのかもしれません。そして、わからないのは
カイトのせいじゃないのに、まるで彼が悪いかのように責められる。私だって、責め
てしまう。
「どうして、コトコちゃんのくまちゃん、踏んだの」
「ごめんなさい」
「どうして」
「もうしません」
「どうして」
「コトコちゃん大好き」
「どうして」
「わかりません」
 誤摩化してるわけじゃないのは、知っています。でも、笑ってるんだもん。天使のカ
イちゃんのときの笑い方と、なんら変わりはないのですが、この文脈だと「にやにや」
と形容せざるを得ません。
「カイトに悪気はないんだから、おかあさん、可哀想だよ」
 と言うおとうさんは、カイトだけが大切な人として、最近、マナトにもコトコにも全
然信用が無くなってしまいました。
 転び易いコトコ(何故か、膝小僧に絆創膏が絶えることのほうが珍しい)の行く先に、
足を出して転ばせようとするとか、わざと大事な物を隠すとか、踏むとか、おとうさん
に隠れてあっかんべーをするとか、悪気がないとは思えないんですが。マナトは言います。
「おとうさんに、そういうこと言っといた方がよくない?知らせといた方が。カイトに
はそういうとこがあるって」
「で、『ほう、カイトも自分から意地悪が出来るようになったのか、偉いもんだ』って言
われるのか?余計、腹立つぞ」
「それもそうだ」
 多分、おとうさんの言い分は(仮定の言い分ですが)正しい。カイトが一人っ子だっ
たら。
 一人っ子だったにしろ、うちの外じゃ言っちゃいけないことに変わりはありませんけど。
コトコが、幼稚園である女の子から聞くに堪えない罵詈を浴びせられたとき、担任の先生が
そちらのお母さんに注意をしたところ、
「うちの子も、それだけのことが言えるようになったなんて、進歩したもんですね」
 とにこにこ顔でお答えになった、という話をしていただいたときには、かーなーり頭に来
ましたよ、私。それと同じことですから。
 子どもの行動に心を痛めて辛くなっても、一番辛いのは子ども自身だと知ることは、発達障
害の子どもを育てて行く原点でもあるんですよね。困った行動の原因には、本人が困っている、
という事実が有る。
 おかあさんの頭は痛いのですが、小悪魔くんは今日も元気に学校に行きます。なんだ
かんだで、学校大好き。今は運動会の練習真っ盛り。6年生の騎馬戦は、今まで他の子
と同じ条件で参加してきたカイトにも、流石に無理です。でも、ここの学校のすごいと
ころは、それでもなんらかの形で参加させようとしてくださることで、カイトは馬も乗り手も
無理なので、「しっぽ」になりました。でも、一生懸命、馬について行こうとして、馬のズボ
ンを下げてしまうので、つかまずに押せ、と指導しているところだそうです。
 みんなと同じ条件で参加できない辛さが根底にある、のか?
 好きでやってるわけじゃない、のか?
 なーんかなあ。
 楽しんで巫山戯てんじゃないだろうな。
 辛さを共有してやれないおかあさんがここにいるぞ。

◇◆堀田あけみ先生の略歴
 1964年 愛知県生まれ。
 1981年、「1980アイコ十六歳」で文芸賞を受賞、文筆活動に入る。
 その後、名古屋大学教育学部に入学、卒業後、同大学院教育心理学科に進学。
 専攻は、発達心理学・学習心理学。特に、言語の理解および産出のプロセス。
 2011年現在 椙山女学園大学 勤務

【主な著書(現在、入手可能なもの)】
 「わかってもらえないと感じたときに読む本」「おとうさんの作り方」(海竜社)
 「十歳の気持ち」(佼成出版社)、「唇の、することは。」(河出書房新社)
 「泣けてくるじゃない」「あなたの気持ち」(角川書店)
 「マナティ 夢の人魚」「大草原のプレーリードッグ」(共著、七賢出版)
 「White Smile」(共著、ワニブックス)
 「発達障害だって大丈夫−自閉症の子を育てる幸せ」(河出書房新社)

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   小児科医 宮地泰士せんせいの「子育て応援エッセイ」 第61回
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 ある日、ラジオでこんな言葉を聞きました。

「雨が降る日は何か諦めがつくというか、やりたいことができないことも自然に受
け入れられて、むしろしっとりと落ち着いた生活ができると思いませんか。」
現代は昔に比べて大変便利になり、“自分の思い通りにやれる”ことが増えたように思
います。しかしその分、物事の流れが速くてやることも多くなり、よく振り返りよく考
えるために自分のペース配分を維持する自己管理力や、全体のバランスを崩さないよう適
度に我慢や妥協をする自己コントロール力が一層求められる時代になったようにも思い
ます。そのように考えると現代は、どうしても諦めないといけないことが減った反面、良
い意味での諦めや妥協といった“開き直り”がしづらくなったのかもしれません。

 ラジオで語られた心境は、雨によって日々の生活のペースを“ちょっと止められる”こと
で一息つくことができ、現代では忘れがちな“開き直り”の良さを思い出すということな
のではないでしょうか。

 ある先生がこのようなことを言われました。
「子育ての難しさは、“自分の思い通りにやりたい”という思いに囚われるからである。」
ひょっとしたら子育てが難しいと感じる時は、ちょっと“自分の思い”が強過ぎてしまった
時、あるいはまだタイミングが早過ぎる時なのかもしれません。そんな時は開き直って、
ゆったりと“子育ての雨宿り”をすることも大切なのかもしれませんね。

◇◆宮地泰士(みやち たいし)先生の略歴
 平成7年3月  名古屋市立大学医学部 卒業
 同年4月    名古屋市立大学病院小児科 入局、勤務
 平成12年4月 医学博士号 修得
 平成15年4月 名古屋市児童福祉センター 勤務
 平成18年7月 子どものこころの発達研究センター 勤務
 平成22年4月 名古屋市あけぼの学園 勤務

【著書】
 ・可能性のある子どもたちの医学と心理学(共著)
   (ブレーン出版 石川道子、辻井正次、杉山登志郎 編著)
 ・直ぐに役立つ発達障害の診断とサポート(共著)
(東海小児心身医学研究会 発行)

◇◆子育てに難しさをお感じのおやごさん、専門家のみなさんを対象に、
 全国的に発達支援に関するセミナーを開催しています。
 詳細に尽きましては、順次、当会ホームページにてお知らせ致します。
   http://www.as-japan.jp/j/index.html

◇◆「専門情報誌」アスペハート誌のご紹介
 アスペハート誌は子育てに難しさをお感じのおやごさんたちに、専門的で
 先進的な知見をご紹介する専門情報誌です。発達支援に関わる多くの最新情報を
 掲載しています。詳細に尽きましては、当会ホームページをご覧ください。
  http://www.as-japan.jp/j/heart/heart.html

◇◆「楽しい子育て応援団」へのご意見、ご感想をお待ちしています。
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