2022.10.10
 さて、緊急事態につき、二ヶ月ほど別の話題になりましたが、再度、家族の死に向き合うこととしましょう。
 遠い、知らない場所で夫を亡くし、斎場から火葬場から全部一人で手配しました。
 子ども達は先に飛行機で名古屋に帰します。飛行場まで、一緒に行って、見送った私には火葬という作業が待っています。
 その前に、夫の大好きなジェラート屋さんにみんなで行きました。彼は糖を取らなかったので、いつも宅急便で送ってくれました。でも、こちらに来てお店で食べると、もう段違いに美味しいのです。糖質を解禁してからは、毎日のように食べていたみたいです。次に来るのはいつになるかわからないから。来ない、という選択肢は無いと思いたいのです。父親が最後を過ごした場所を、もう一度見る機会は、与えたいので。
 セントレアに較べたら、とても小さな空港です。でも、観光地なので保安検査前のお土産屋さんは結構広いです。但し、営業縮小中。長男は、心配かけている友人に何か買うと見に行きました。長女は「ゴールデンカムイ 」のグッズかあるので欲しいと言いました。好きなだけ買ってあげますよ。

 さて、ここから3人での旅です。地獄に近いのに、私は見ていられない。長女と次男は幼少時から「天敵」と呼ばれるほど、常に張り合っているのです。長男とは仲よかったはずですが、鬱を拗らせすぎて、いい加減鬱陶しい。旅行とか食事とか楽しいはずの団欒が、彼の体調で楽しくなくなることが重なるという実害も出ている。成績良くて空手強くて見栄えもする兄だからこそ、仲良くできていたのです。この点について、彼女を責めることはできません。
 そもそもの旅の出発点を思い出してみましょう。長女だけ、別口で航空券を買っています。急な購入で、座席が離れていました。カウンターで、スタッフさんが言います。
「今、お兄さん達と離れた席なので、近くに変更しましょうか」
「いえ、遠いままで結構です」
 この先は、できるだけ関わりたくないと、しっかり意思表示します。
 次男がどういう行動に出るかは予想がつきません。そして、長女は次男のちょっとした粗相がとても気になるのです。知的障害を伴う自閉症なので仕方ない、というのは理解しています。でも出口がない不快さとはできるだけ付き合いたくありません。
 例えば、少なくなった飲み物をストローでいつまでもずるずると啜っているとか。マナー上は避けるべき行為です。でも、次男には次男の、行動する根拠があります。食べ物や飲み物を大切にするように言われているから、最後まで飲もうとするんです。
 全部わかっているだけに、やめろとも言えないから、遠くに座ることを選択する。これは、とても賢い行動です。
 更に、羽田空港で3時間ほど待たなければいけません。これも、一人で行動すれば、お茶してお買い物すれば終わってしまう時間です。でも、行動に制限がかかる兄二人がいれば、難行苦行です。
 もう一つ。彼女は、なんだかんだ言って、父親の死を一番、心の深いところで捉えている人物だということです。ここまで来るにあたって、行かないと一度は決めて、止まらない涙と不安から行くことを決めて、病院に着いてからはずっと父親に寄り添って、結果的に一人で父を看取ることになってしまった。
 今に至っても、父の死に関する話題になると泣いてしまうのです。ちょっとしたことでも。
 そんな彼女は、きっと、一人で静かにしていたいのです。
 でもって、乗り換えの羽田ではとっとと先に降りてしまい、長男が次男を連れて、人多くて、カフェなんかも混んでて、どこか座るところがないかなーと歩いていたら、ちゃっかりとタリーズで飲み物とスイーツを前に、参考書を広げる妹を発見したとか。
 セントレアには、姉夫婦に迎えにきてもらいました。
「晩ご飯、何が食べたい?」
 と訊かれて、鰻と即答した長男に、
「あいつには、遠慮というものがないのか」
 と切れた長女ですが、こういうときは遠慮しなくてもいいんですよ。
 珍しく長男が正解を導き出しました。但し、これはうちの姉夫婦が相手だったとき、なので、遠慮した方が正解の場合もあります。
 
 翌日、私がお骨を持って名古屋に戻りました。
 これも、一筋縄では行きません。
 父のときには、全ての骨を拾ったわけではなかったと記憶しています。今回は、全部拾いました。そもそも、なかなか焼けなかったんですよ、体格いいし、比較的元気なとこから死んだし。背が高い分、骨も多いでしょう。あと、頭蓋骨、でかかった。それを、ぎゅうぎゅう押し込んで詰めるんです。
 重いわ。
 でも、肩に担いだりもできないので、一生懸命大人しく、前に抱えてるわけです。正直、トイレも行き辛い。お茶なんかしてる場合じゃありません。
 そして、搭乗口変更で、羽田の端から端まで歩かされましたから。骨壷抱えて。すれ違うときに、合掌してくださる方もおられました。
 席は隣が空いていて、水平飛行に入ったら、そこに置いてもいいってことになってたんですよ。
 ところが、一つ向こうの席の青年が、彼のための席に自分の荷物を置いて、シートベルトで固定したんです。荷物は上の棚か前の座席の下が常識ですよね。当然、注意されてました。
 この話をすると、信じられない、酷い、と言われるんですが、私、わかる気もするんですよ。シンプルに、死者を隣に置かれるのか嫌だったんで、自衛したんじゃないですかね。
 さて、今日も姉夫婦にお迎えしてもらって、でも、少し遅れたから、空港内のお店は閉まっちゃってて名古屋でファミレス入って、家に帰って。
 幸い、歩いて5分のとこにT E A Rがあるんで、既に予約は入れてあります。明日は土曜日だから、少し寝坊して、打ち合わせに出かけましょう。


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