2023.07.10
先日、さる方から「未亡人」と呼ばれてびっくりした。ま、未亡人なんですけど。思えば最近聞かない単語ですな、と思って。
言葉狩りの趣味はないけど、まあ、夫と死別した女性を「未だ亡びざる人」って呼ぶなんてのは考えてみれば趣味が悪過ぎる。
へらへらして未亡人らしくないんですってよ。
元気なきゃ前向けって言われるし、元気だしゃそう言われるし。
とっとと亡べとでも仰るか。
気がつけば、夫を失ってから一年以上が経っているのに、亡くした記憶はまだ新鮮で、何をしていても彼のことを考えてて、同じくらい、彼の死を踏みつけて、私を傷つけた人のことを考えています。そこを拗らせているので、腹黒いとこが出てきやすい、この頃。
夫とネットで繋がっていた人達が苦手です。
長男が鬱を発症して9年。途中から夫が「薬をやめて糖質を摂らなくなれば、嘘のように治る」と信じて、その信念との戦いでしたわ。
千葉にある、某クリニックのサプリですぐ治るから行こう、と言われました。この本を書いた人だよ、読んでよ、文科省の講演にも呼ばれてるんだよ、すごいでしょう。文科省なんて、医者でも教育者でもない、現場知らない役人集団だ。素人みたいなもんだろうが。てか、「僕、反体制派なんだよね、基本的に」って言って、徳川美術館さえ批判してたのに、なんだよ、その省庁信仰。
で、本だが、自費出版てとこで、もうお察しだ。当然、読まない。そんな暇ない。読んで欲しけりゃ、フルタイムで働いて、原稿書いて、学外の仕事して、家事育児ワンオペの私に時間くれ。なんでも、薬に頼らずサプリで治すそうですよ。私もネットの情報で対抗したら、そのクリニックでは、ほぼ全員の患者が同じ診断をされて、サプリを大量に処方されるんだとか。そのサプリは、お医者さんの夫が個人輸入しているので、ここでしか手に入らない貴重なものだと。
あ、でもね、ちょっとお金がかかり過ぎると思ったら、減らしてもいいって。
最初から、減らせや。
頭いいって自認してるんだから、そのように振る舞って欲しいものです。どう考えても、真っ黒な案件じゃねえか。
神戸に名医がいるとも言い出しました。やはり、薬には頼らない。初診料3万円。以降は安くなるし、オンライン診療もできるからって。話聞くだけで3万円て。この人、反ワクチンの旗振り役らしい。
夫が亡くなってから、大きな声じゃ言えないが、彼のFacebookをときどき覗いています。彼を悼む言葉を探して気づきました。
ビジネス追悼が多いなあ。
いや、ビジネスだけじゃない。自己陶酔のためもある。
そして、覗き見ることで、「こんな奴らとつるんでたら死ぬわ」という納得が自分の中に生まれたことにも気づきました。
彼の病気がわかる前から、我が家はキッチンとお風呂のリフォームを決めていて、家の大掃除をしました。彼は、片付けることができないので、いろいろなものがたくさん出てきました。
冬の取材の必需品である使い捨てカイロは200個くらい。使うつもりで買っておいたらしいレターパックが20枚。断糖とアンチ抗がん剤に関する本が百冊くらい。本に関しては、
「どうしますか?」
と尋ねたら、
「捨てて」
とのことでした。
「何の役にも立たなかった。見事に」
最期にそんな言葉を聞けて、勝ちを確認した私が悪女なら、それでいいや。
向精神薬を絶って、その経験をマンガに描いて自費出版(また!)してる人がFacebookで嘆いている。
「小原さん、小原さん、どうして死んじゃったの? ワクチンなんか打つからだよ‥私、止めたよね? なのに、なのに、くすん‥」
どうしても、本当に悲しんでいる人の文章だと思えない。自分の主張は自前でやれ。私の夫の死を便利に使うな。あと、そのポエムの横にある、両手に焼き芋持ってかぶりつくアイコンをなんとかしろ。
この方は今、金属バットで殴られ続けるような頭痛に悩まされているそうだ。でも、医者には行かない。医者と薬は悪だから。
「私みたいに、断薬して10年以上経っても後遺症で、ひどい頭痛や太りやすい体質になるような人を二度と出さないために戦う!」
頭痛は後遺症じゃない可能性があるから、診てもらった方がいい。あと、太ってるのも後遺症じゃなくて、日常の書き込み見るに、普通に食い過ぎだと思う。少なくとも、一度に焼き芋2個は。
この人達は今、マスクもワクチンも任意になったので、殴る相手がいなくなって、同士討ちに精を出しておられる。
薬と標準治療を否定して、二進も三進も行かなくなってから頼った夫は、一時的に体調が回復したものの、力尽きました。がん細胞は小さくなったんですよ。腫瘍マーカーも半減しました。でも、それ以上に体力の消耗が激しかった。薬と共存している長男は、最近、なかなか良い感じです。新薬試してみたら、相性が良かったようで。
真面目で相性の良いお医者さまの話は聞くものです。
いないのが日常になっても、慣れることはないって学習しました。でも、慣れないって事実に慣れてきた、と感じています。
社会的には、ちゃんと大人であろうとして、そこそこ上手く大人を演じてきたつもりですが、夫に関しては私は拗らせた子どもでした。今でもそうです。というか、彼だけがそんな私を受け入れてくれていたから、私は子どもでいてよかったんだと思います。
特に職場では、ずっと教授を演じてきたのに、今年の3年生のゼミで、ある女の子が恋愛をテーマにして、それに関する白熱したディベートに参加したら、私の拗らせスイッチ入ってしまった。
「このクラスでは、拗らせ腹黒キャラで行くね」
そのクラス限定だったはずなのに、ときどき、外でもスイッチ入るんだなあ。だから今回は、腹黒キャラ全開にさせてね、というお話でした。
難しい子どもを持っていると、ネットの情報や、意識高い系ママ友さんから、妙なサプリや治療法を勧められると心が揺れると思います。でも、やっぱり、エビデンスを重ねた標準治療に勝るものはないんですよ。それを書いた本とかないじゃん、って夫は言ってましたが。
普通のことは、いちいち大声で言わないんだよ。でも忘れられちゃわないように、私はときどきそれを発信していこうと思ってます。
夫の死を代償にして手に入れたものだから。