2022.04.10
 一泊多くなる、と言う報告に、子ども達はそれぞれ、問題無い、と応じました。
 長男は、休学中でどの道ずっと家にいるので問題なし。
 長女は、自分でお弁当作って学校行くので問題なし。
 次男のジョブコーチにLINEで連絡して、昼食を社食でとるようサポートをお願いしました。本人からは、「お洗濯自分でします」と言うコメントが返ってきました。これは、木曜帰宅の予定が金曜帰宅になったので、金曜に持ち帰る作業用の制服を自分で洗うと言うことでしょう。
 親の不在時、一番大きな問題は、子どもだけで食事をどうするかということです。
 我が家の場合、ピザをとる、コンビニで買う、の他に、近所の店で食べる、と言う選択肢が使えたのは幸いでした。
 学生時代からずっと、大きなお寺の門前町に住んでいます。家賃2万円の木造アパート(今は駐車場になっていますが、月額2万円以上するらしいですよ)から、中古のマンションを買うまで。学生時代から利用していた定食屋さんや喫茶店では、子どもだけで入っても、
「お父さんもお母さんもお仕事なのね」
 と世話を焼いてくれました。
 そんな日々を経て、ああ、子ども達も大きくなったなあ、安心だわあ。
 なんて考えていた私は大いに浅はかでした。

 予定にあった一泊めは当然、大丈夫です。
 夕食は、長女は塾にいるので、コンビニかその周辺で済ませます。男子組はコメダに行きました。
 さて、二日め。長女の夕食は前日と同じ。翌朝用に、コンビニでお弁当用に冷凍つくねと朝食用のパンを買います。
 長男は、次男に言いました。
「今晩は、別々に飯食おうか」
 彼はラーメン屋さんに行ったそうなので、別に次男がいても悪くはなかったんだと思います。ただ、一人になりたかったんでしょうね。
「わかりました! 僕は、イオンで食べます」
 この会話で、二人の間では情報が共有されました。
 さて、夜の9時半、塾から戻った娘は次男がいないのでとっても心配します。長男に確認したら、
「イオンに行くって言ってたけど‥」
 程なく帰ってきた次男に訊いたら、
「長久手イオンに行っていました」
「ドムジャちゃうんかい!」
 ドムジャ、と言うのは、この辺の若者言葉で「ナゴヤドーム(今はバンテリンドーム)イオン」のことです。「ドームのジャスコ」の省略形らしいです。
「心配するでしょう、こんな遅くまで出歩いたら! て言うか、なんで平日にそんな遠く行くん? なんで、それを認める? 信じられん! あんたら幾つや!」
 年の離れた妹の怒りの説教を、成人した兄二人は黙って聞くしかありませんでした。
 いえね、言い分が全くないってことじゃなんですよ、多分。
 ただ、こういうときは何も言わないのが一番なんです。反論は許さない前提で怒ってるから。
 父親への反抗心が一番強く、父を批判する言葉を一番しっかり持っている彼女が、実は一番父親の思考回路を受け継いでいるのも事実なので。
 でも、「平日に、なんでそんな遠く行くん?」という彼女の問いは、無体でもあります。我が家はここのところ、外食をほとんどしていません。そりゃそうでしょうよ。コロナ下で受験生を抱えた家庭は、感染する可能性を一番低く保てるように行動するものです。もともと、焼肉が大好きなお父さん、スーパー銭湯が大好きなお母さんは、車があれば、平日でも出かけていましたが、お父さんは一年半ほど前から網走に住んでいます。だから、彼女は忘れているのです。
 我が家はもともと平日の夜でも、構わず外出していました。お風呂に入って遅くなることもありました。愛・地球博の時期には、全期間券で空いている平日に何度も行って、帰りに「長久手温泉・ござらっせ」に寄って、帰りの車の中で子ども達は熟睡、それでも翌朝元気に学校に行っていたのです。
 愛・地球博っていつの話よ、というなかれ。次男の無駄に精密な記憶の中では、昨日のことのように鮮やかなのです、きっと。
 だから、一人でご飯かあ、どこに食べに行こう(常識では徒歩圏内。平日だから)、イオンのフードコートがいいなあ(でも近所では、一人で食事しない。「今日はどうしたの? 一人なの?」とか言われると面倒)、そうだ、気分を変えて長久手に行こう、今までもお父さんの車で行ってたし、リニモに乗れば大丈夫、という思考回路になっても不思議はありません。
 更に、「なんで、それを認める?」については、それこそ、長男は「ドムジャ」だと思ってたんでしょう。ただ、長久手イオンと言われたところで、「あ、そう」で済ませた可能性は大です。だって、平日だって出かけてたじゃん、という記憶は彼の中にも当然あるし、長男は次男が結構できる奴だと思っているからです。
「平日の夜遅く、一人で出歩くなあ!」
 という長女の言い分は、
「お前や俺の、塾や空手の練習も、もっと遅くまでやってたやん」
 で論破できそうなものですが、
「こいつ(次男)は話が別やろ!」
 となるわけです。
「あんたら幾つや!」への答えは、「成人男性」。だから、夜9時台に帰宅するなんて普通なんですよ、一般的には。でも、通常5時には帰宅している二人。だから、「ええ年だから、平日に遅くまで無断で出歩くなんて非常識だと判断しろ」、となるわけです。

 LINEにて、一部始終を怒りに任せて報告する長女を、「そりゃあ災難やった、よう頑張ってくれた」と労った後、兄ちゃんずには、「まあ、あの子の責任感を肯定的に認めたれや」と伝えました。
 平日に出歩いていた頃、長女は小さな子どもでした。ですから、その記憶は遠くて朧げで、しっかりと物心ついた、ここ数年の平日の夜は、家にいるのが常識なのです。
 ところが兄達にとっては、平日の外出は、かなり大きくなるまで続いた小原家の日常で、特に次男の記憶は、古いことまでとても鮮明で緻密、想像するに、昔のことだという実感も薄いのではないかと思うのです。
 だから、妹の言う「常識」の範囲にはなかった。そもそも、彼が「常識」という概念を持ち合わせているかも、疑問ですがね。
 今回は、彼が何を理解しているかの範囲を、把握し損ねたお母さんの失敗です。
 あと、娘がそこまで怒るってのも、予想してなかった。
 彼女は、今や、小原家は自分が支えていかないと立ち行かないと思っているのかもしれません。
 15年くらい前の長男のように。彼も、弟妹の行動をいつもヒステリックに制御しようとしていましたから。
 どちらも、私が頼りすぎちゃった故なのかもしれません。

 常識の範囲が違う、というのは先日もありました。
 名古屋市の福祉乗車券の交換が先日ありました。マナカですから、お金をチャージすることもできます。だから、私は次男に言っておきました。
「ちゃんとお金をチャージしておいて」
 地下鉄と市バスには只で乗れるけど(制度が変わって、市内だったら全ての公共交通機関が無料になりますが、今の彼の感覚では)、他ではお金が必要です。お出かけも多くなりましたから。以前、お蕎麦屋さんに一人で入って、お金が足りなくなったので、私が払いに行ったことがあります。そこで、財布のマナカの中身はきちんと、と念を押したのですが。
 マナカの交換にあたり、「チャージしたお金を使い切ってから、返却してください」とのことで、チェックしてみたら。
 1万円以上入ってました。入れ過ぎな気がする。
 既に、彼は新しいマナカに、しっかりチャージして使っています。介護者用マナカと合わせて返却するのはお母さんの役目。
 使い切る使命は、長女に託しました。それくらいのご褒美もらって良いくらい、頑張ってるもん。
「これ、入ってるお金は、お母さんが稼いだの? それとも海斗?」
「海斗」
「なんか釈然とせん」
「それくらいのご褒美、もらっていいくらいの尻拭いはしてるでしょ」
「確かに」
 ドラッグストアに行って、ちょっといいヘアオイルとネイルカバー液を買う予定だそうです。
 さて、介護者用のはどうかな。基本、普通のマナカと2枚使いだから、入れてなかったっんじゃないかな。
 5千円入ってました。コンビニで、地道に使います。


BACK NEXT

Copyright(C) 2004,Asperger Society Japan.All Rights Reserved