2021.09.10
 大学で、「小説創作」という授業を担当しています。
 文章力をつけることも大切ですが、多方面にわたる想像力を磨くことも大切。様々な事柄について、考えさせます。前期最後の授業では、「夏が終わったときに、『やり残した』と思いがちなことはなんでしょう(コロナはこの際、無視する)」という出題をしました。自分の答えと、同様の調査(但し、実施されたのは十数年前)の結果を比較して、コメントをまとめるというものです。調査の結果は「1位 花火を見ていない  2位 海に行っていない  3位 プールに行っていない  4位 スイカを食べていない  5位 浴衣を着ていない」でした。
 でもって、令和の女子の発想、実はこれと大差ないのですね。大きな違いは、海の消失。彼女達は海に行かない。二つの半島に恵まれた地域に住みながら、近場に伊勢もありながら。水着はプールで着ます。海はいろいろめんどくさい。日陰も無いし、肌はべたべたするし。シャワーもトイレも少ないし。衛生的に全てが揃ったプールの方が安心です。映えるしね。
それから、スイカではなく、かき氷を食べていないとやり残し感を覚えるようです。その調査の時代と今とでは、かき氷事情も異なりますもんね。今は、女子にとってのかき氷は、色のついた甘いシロップをかけたものではなく、拘りや工夫に満ちた素敵な食べ物になっています。一時期流行った「フラッペ」なんて言い方もしなくて、「〇〇氷」というネーミングが主流のようです。
 先の「(コロナはこの際、無視する)」という指示は、コロナを考えに入れると、テーマパーク行ってないとか、ビヤガーデン行ってないとか、夏祭りでりんご飴食べてないとか、「今年だからできない」もの(ま、去年もできませんでしたが)が入ってきてしまうので、それを避ける為です。
 
 私は夏休みにいろいろしたい性です。スイカ食べたい、桃食べたい、もちろん、かき氷も。子どもができてからは、プールもキャンプも旅行も。
 これは、バブル期のイベント最盛期に二十代後半を過ごしたせいもあるかもしれません。当時の私は、周囲が結婚していくのに、自分には全然その気配がないのに焦りまくって(結果的には、直後に「交際零日婚」してしまいますが)いました。
 それが、折角独身でいるんだから、その立場で楽しみまくらないと損、という焦りに置き換わり、夏ともなれば、野外のライブ・花火・浴衣(何でもいい。着れば)と一通り夏らしさをこなさないといけないという強迫観念に駆られていました。あ、当時は水着はありません。誘われたら行くけど、マストではありませんでした。
 それが、子どもとの暮らしで一変し、子ども達が手を離れつつあることで、また変化が起きています。コロナ自粛の始まりは、私達にとっては子どもとのお出かけの終了でもありました。
 以前通りに、好きに出かけられるようになっても、子ども達とあちこちに出かけることはもう無いと思います。
 そんな時期の私の夏のやり残しは。

 別に、悔しくも無いですけど、今年ほど、素麺を茹でなかった夏はないと思います。
 夏休みと言えば、昼飯の問題ですよ。特に子ども小さいと、ねえ。普段は全員が給食食べてんのに。毎日、三食、五人分とか。
 いつも、素麺と別の何か(冷やし中華とか、チャーハンとか、焼きそばとか、スパゲティとか)を交互に出していました。子どもが小さいと何かと外出もしますから、そういうときは外食にしますが、それでも素麺の出番は多い。
 私の小さい頃は、田舎だったせいか、毎日のように学校のプールがありました。住んでいる地域ごとに、時間が決められていて。それから戻ると、ときどき母がお弁当を作ってくれていたのが嬉しかった記憶があります。運動会と遠足にしか食べられないものだったから。
 今は、まず次男は完全に社会人ですので、毎日出勤します。お昼がいらない分、お弁当は必要です。ときには社食で食べて欲しいと思うのですが、一度、社食で食べてみてはと提案したところ、
「お母さんのお弁当がいいです」
 と断られました。私が言うからいけないんだと、ジョブコーチにお願いして打診してもらっても駄目でした。彼は、職場で可愛がられているので、これで弁当作ってあげなかったら鬼母認定だな、と諦めました。嬉しいような悲しいような。
 長女は受験生です。夏休みでも平日はずっと、学校のもしくは塾の自習室にいます。こちらもお弁当持ちです。
 長男は大学生ですが、前期の最終週、一気に抑うつ状態が悪化して、ずっと家にいます。昼時に起きられないことも珍しくありません。もちろん、前期の単位は零です。今期こそ、がっつり単位とるぞーって万端整えてましたのに。それがいかんかったんか。
 ついでに、ある日突然、トイレを鮮血で染めて、そこから大変な日々がしばらく続きました。結果としては、良性のポリープだけで済みましたが、若者にとって、内視鏡による手術とか、食事制限とか、まあ、控えめに言って地獄だったと思います。
 つまり、夏休みだからと言って、生活状況が変化するのは私だけ、という状態です。四人分、五人分では一気に茹でられて、お手軽な素麺ですが、一人分や二人分では却って面倒。必然的に、夏とは言え、土日のお昼限定となります。
 ゆうても、十回や二十回、茹でてますけどね。子どもの宿題に、こっちが血眼になることもなくなって、でも、感想文セミナーは今年も頑張って、私の夏は終わりです。さあ、後期に向けて、切り替えましょう。

 と言おうと思ったら、感染者激増による緊急事態宣言で、またオンライン授業ですよ。私の感覚では、3倍くらい手間がかかります。
 それでは、準備に行ってきます。

注)文中の調査は、堀井憲一郎「かつて誰も調べなかった100の謎」(文芸春秋、2013)によるものです。「チョコボールを何箱買ったら金のエンゼルが当たるのか」とか、「“子”の付く名前の女子が半数を切ったのはいつからか」とか(ちなみに、私は「子」全盛期の生まれで、田舎出身にも関わらず自分に子がついていないのが密かなコンプレックスで、平成生まれの娘には「子」をつけました)、「部活が『水飲み禁止でなくなりだした』のはいつなのか」といった昭和生まれには、たまらんネタの宝庫です。


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