2023.10.10
 こう言う仕事をしていると、子育てについて質問されることもありますし、講演やセミナーの依頼もあります。質問をなさる時点で、育児に熱心な方だと思うのですが、何より大切な「自分で考えること」を見失っておられるのでは? と思うこともしばしばです。
今回と次回は、そんなお話です。

 東海地方にお住まいの方なら、一度は目に耳に、したことがあると思います。
「人間になろう」
 これは、私の勤める椙山女学園の校訓です。

 俗にSSKなどと申します。愛知の名門女子校(ああ、自分で言っててむず痒い)です。淑徳(大学のみ共学化済み。因みに、正式名称は「愛知淑徳」)・椙山・金城の頭文字ですね。こちらをお読みの方の中にも、関係者がおいででしょうか。御三家であると同時に、ライバル校との設定もあるようです。そんなのは、言ってるだけ、と外部にいた頃は思ってたんですがね。
 本当らしい。
 近年はどうか知らんが、私どもの年代では洒落にならんほどバチバチしております。
 以前、名古屋の奥さま掲示板というサイトに、読む専門で出入りしていましたが、最初の注意書きに「SSKの話題は厳禁。荒れるから」とありました。定期的に椙山を中傷する書き込みがあったのを記憶しています。嫌い、ならいいんだけど、嘘だったからなあ。星ヶ丘キャンパスと日進キャンパスを結ぶスクールバスが片道1000円だとか書いてました。無料ですけど。1000円はいかないけど、結構な料金をとって、親の口座から引き落としてるのは別の大学ですよ。と引き落とされてる私が言ってみる。ですが、スクールバスなんぞは些末な問題です。その大学、学生相談室がまともに機能していないのが、小原家的には大問題。長男が女子だったら(なんか矛盾を孕んだ表現ですな)うちに来させたんだけどな。うちは障害のある学生には別枠の就活指導あるし。
 それはさておき、さて、本当に荒れるのだろうか。

 実例@
 長男と長女の通っていた、極真空手の道場前。お迎えの親のコミュニケーションの場でもある。試合に行くと、父親の角刈り・スキンヘッド率、母親の金髪率、そして全体のジャージ着用率が異様に高い界隈ですが、うちが通っていたのは世界大会の常連の小学生が、中学受験のために退会するような、ちょっと毛色の変わった道場でした。そんな中、結構仲の良いお母さんに、連絡先として職場の名刺をお渡ししたところ。
「へえ、椙山なんだ。なんだかんだ言っても、金城のが上だよね。薬学部とか人の役に立つ学部あるし」
 すげ。いきなりこれかい。ここまで、はっきり言うんだ。
「で? あなた、椙山のどこの学部出たの? 文学部?」
「あ、出身は名大の教育」
「今度、勉強の仕方教えてね」

 実例A
 私の取材にいらした記者さん。ご多忙中、対応いただきありがとうございます、とおっしゃって、腰も低いのですが、
「椙山の文学部が国際コミュニケーションって名前に変わってて、びっくりしました。国
文の椙山でしたのにねえ。英語は、金城に勝てるわけないのに、どうしてでしょう」
 悪かったですね。来年度から外国語学部に変わりますよ。
 てか、取材に協力(基本的に取材協力は無償。時間とられるだけ)してくれる相手ディスるって、すごい根性してんな。

 結論。まじで、触れない方が良い。
 椙山の関係者だってばれると、
「『人間になろう』とかって、学生サル扱い?」
 って言われるから、尚更。

 外部の方がそのようにおっしゃるのは自由ですが、うちに通う学生がその示すところを知らないのは非常にまずい。からか知りませんが、うちの大学では新入生を対象として自校教育を実施しています。椙山女学園の歴史を3コマ使って教えるんです。
 これが、教え手の間では擦りつけ合いの形相を呈しておりまして。
 そもそも学者の専門領域というのは狭いものです。その狭い領域が一番教えやすいから、ゼミの授業が一番楽しい。講義形式の授業でも、概論よりは専門的なものの方が嬉しいわけで。
 自分の専門に擦りもしない自校教育は、負担になるだけです。
 毎年6人で担当しますが、主任の先生以外では、変更なしで務めているのは私だけです。
 なんでかっていうと、これがドラマチックで面白いからなんだが。教材はとても淡々と書かれている。
 他の先生方は、どのように教えておられるのでしょうか。
 例えば、創設者(男性)は女学校を作るにあたり、東京の女学校に入学を申し込んだが、断られています。当たり前です。明治の男、何考えてたんだか。
 しかし、もっと何考えてたんだ、と思うのは、どうしてもとお願いしたら、熱意に負けて校長門下生として、授業を受けさせてもらえた、という事実です。いや、男だろ。授業受けさすなよ、校長。
 私の中では、校長室で土下座する青年に、
「わかったよ、君の熱意には負けた。聴講を許可する」
 と微笑む校長。固い握手。かと思えば、すぱーんと戸が開いて、ベテランの女性教員が薙刀を構えて立っている。
「殿方はなりませぬ!」
 ここまでの妄想が成り立っております。女性教員は寺島しのぶでお願いします。
 
 ここで「人間になろう」の意味も教えます。
 人と呼ばれるに相応しい人であれ、と言うものです。
 そして、彼女たちに尋ねます。
「あなたにとって大切な人は誰ですか」
 このときに、私は「正解は求めていない」ことを知らせます。
 大学1年生は、つい先日まで大学受験の為の勉強をしていました。もちろん、最初から併設校や指定校の推薦が取れそうだから、と特に受験に特化した勉強をしない人もいます。A Oで来る人は、プレゼンテーションや面接の対策で別のことに力を入れることもあります。でも、大半の学生は、一つの正解に向かう思考が癖になっています。だから、ここでも正解に向かってしまうのです。
「両親です」「家族です」「友人です」
 本当にそうでしょうか。
 恋人だったり、「推し」だったりしませんか。
 今、このときに本当に、あなたにとって大切な人は。
 本音とは、実は自分でもわからないものであったりするのです。
 あなたも親として、自身の本音ではなく、外の誰かへの正解を掲げていませんか?
 例えば、あなたは子育てについて、我が子について、何かを発言するときに、自分の言葉でできているでしょうか。どこかで聞いたそれっぽいことを、自身の考えと取り違えていたりしませんか?
 来月は、その問いへの答えも含めて、本音と向き合ってみようかな、というお話です。

 子どもに一番大切なものを尋ねると、アメリカ人は馴染みのあるもの(使い古した靴や、いつも持ち歩いているお人形)、日本人は高価なもの(ゲーム機、ブランド品)を選ぶという話を、小学校の保護者会で先生が仰いました。ほんまかいな。まじで。
 その話の後、子どもが大切なものを書いた紙が返却され、まあ、物質至上主義を考え直せ、と暗に伝えられたのですが。
 それは、末っ子のときの話。彼女の答えは「かぞくといのち」。なんて彼女らしいんだろう。
 優等生的な回答ということができるかもしれません。でも、これが表しているのは、幼い彼女の生存本能の強さです。
 それは、家族がいてくれたら、生きてはいける。という事実と同時に。
 家族がいるから、生きていきたい。だと思いたい。
 そして私は自分だったらどう答えるか考えるときに。
 これ以上の回答を思いつけないのです。
 いや、「家族」だけかもしれない。「子ども」だけかも。
 でも、私の子どもは一人で生きていくのは困難なので、大切な子どもをフォローするには私の命は必要です。
 さて、あなたは?


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