2021.01.10
子どもの成長というのは、本当に早いもので、うちの子達も男子は二人とも成人してしまいました。ずっと子供部屋に住んでいるので、その実感が実はあまりないのですが。幼稚園と小中学校、近所の子ども達と一緒に、次男も歩いて通いました。進学する際には、いつも特別支援校か学区の特別支援級か普通級かの進路選択が必要でした。でも、それは教育センターや教頭先生(教頭先生なのですよ、こういうときの窓口は)に相談すると、だいたいこの子はここ、という見当がつくので、何が何でも普通級、という拘りがなければ、全くの手探りということにはなりません。いろいろ調べて本格的に悩むことになるのは、高校進学のとき。普通の子とそんなに変わりませんね。
学区の特別支援級からだと、ほとんどが公立の特別支援高等学校か特別支援校高等部への進学になります。進路の選択については、改めてお話ししましょう。今回の話題は、歩いて行ける近所から、何らかの手段を使っての通学への変化です。
我が家の次男を一つのモデルケースとしてみましょう。
中度の知的障害を持つ彼は、特別支援校に行くことになるだろう、と早くから考えられました。我が家の近くには、特別支援校のスクールバス用のバス停があります。お散歩のときにそこを通って、ここまで一人で来られるように、と小さい頃から言い聞かせてきました。
そこからスクールバスで通学するんだ、という認識が崩れ去ったのは、中学一年生のとき。中学の特別支援級は2クラスあって、先生は3人いらっしゃいました。このうち2人が家庭訪問にいらしたときのことです。既に、進路の話になっていて、普通なら成績と相談しなければいけないので、中1の時点ではなんとも言えないものですが、特別支援校なら限られてくるので、もうここから進路の話が始まるのです。どのような進路を想定しているかを尋ねられ、近くのバス停があるから、あそこではないのか、と訊いたら、
「別にそこである必要はありません。スクールバスには乗れないので。障害が重い子から乗って行くので中学まで普通の公立に行っていた子は、絶対乗れないと言っていいです。一応、学区はあるんですが、市内、どの学校でも受け入れてもらえます」
そう聞いて、得心したことがあります。
名古屋市では、区ごとに小中の特別支援学級が集まって、卒業生を送る会が開催されます。親子で九年間も出席することになるので、学年が近いと同じ区の子の顔は憶えてしまいます。その一人で、おそらくうちの子より3つくらい上でしょう、ほとんど発話のない男の子と通勤時によく会いました。一人で電車に乗っていました。
そのとき私は、親御さんの方針で、自立の為に敢えてスクールバスに乗せないのだと思っていました。乗れなかったのですね。
次男とは、小中高と一緒に通った、ダウン症のお友達がいます。高等部への進学にあたって、母親同士で情報交換をしたものですが、通学の方法については、事情を共有はできませんでした。
名古屋市内の特別支援校は、いずれも通いにくいところにあります。少なくとも我が家からは。名古屋市の大動脈である地下鉄の駅から、遠いのです。あおなみ線の駅のど真ん前にも一校ありますが、あおなみ線自体が沿線にお住いの方以外には、敷居の高い路線です。他の交通機関とのアクセスが悪すぎて。めっちゃ体力ある長男が通っていた市内の男子校が、無駄に駅の真上にあったのに。
家に近いかどうかより、通いやすいかどうかが問題になりますが、同じ学校に通うにも体力や得手不得手で手段が変わってきます。次男は体力はあります。車を運転できない私が、小さい頃から歩かせてきましたもの。駅から普通の大人の足で20分は結構な距離ですが、歩けます。
ですが、お友達はその距離を歩いたら、もう一日分の体力を使い果たしてしまいます。そこで、バスを乗り継いで学校の前まで行くことになりました。名古屋市の地下鉄は、人身事故でもない限り、とても正確に動きます。駅のホームに柵が取り付けられてから、事故もぐっと減りました。しかし、バスは時間通りにくるとは限りません。そこから教えて行く必要があります。時刻表も読めるようにしなければいけません。地下鉄は、最大でも10分待てば着実に次がきます。
次男はそのまま、実習に出た学校にほど近い郵便局に採用されました。今でも、中学卒業時に練習したのと同じ方法で通っています。
先述のママ友さんと、話したことがあります。スクールバスに乗れないと知ったときには、がっかりしたし、公共の交通機関を使えるように教え込むのには苦労しました。でも、高校生のときに自力で通学するという機会を与えてもらわなければ、彼らが自分で動けるようになるのは、もっと遅れただろうということです。
災い転じて福となすとは、このこと。大切なのは、転じるのを待つだけでなく、なんならこっちからひっくり返しに出てやるくらいの気持ちです。
障害のある子を育てるときには、二つの視点が必要だと思っています。将来への準備と、今の充実です。
例えば、運転ができて時間の余裕があるお母さんだったら、スクールバスがないなら自家用車で送り迎えをしても良いのです。それが一番ストレスのかからない解決法だったりします。でも、そうすると自分で移動できる日が遠くなってしまいます。
それから、自立と言ってもケースバイケース、限度があります。移動支援をお願いすることもできますが、もう少し、スクールバスの定員に余裕があれば良いのに、とは思います。
今は、携帯にGPS機能も付いています。便利な時代です。
次男が初めて一人で高等部への通学を開始した日、私は職場の新入生研修で鳥羽にいました。見守り携帯の、彼の位置を示すマークが、学校から最寄りの駅へ、着実に移動して行くのを同僚の先生と一緒に見守っていたのを覚えています。
それが、彼が頼りない障害児を卒業し、自立を目指す障害者の出発点に立ったときだと思っています。