2020.07.10
大学でエッセイ創作という授業を担当しています。小説創作というのも。ここでよく言うのが、エッセイと小説の大きな違いは、フィクションかノンフィクションか。あたりまえですね。しかしこれは、読み手が作品の世界を共有できているかどうか、の問題でもあるのです。エッセイであれば、読み手が自分と同じ世界を生きているのは自明なので、余計な説明はいりません。例えば、ここ数ヶ月の話題であれば「最近、ずっと家にいるから」でいいのです。自粛で家にいるんだな、とみんながわかってくれるというか、みんな家にいました。
様々なエンターテインメントも自粛を余儀なくされて、でも、劇場がだめならネットが、と活動の場を模索しています。クリエイターは創り出すのが、想像するのも創造するのもお仕事だから、次の可能性を考えるのは得意なのです。小説も映画もマンガもゲームも、所詮は絵空事。不要不急の最たるものです。だけど、ここぞとばかり、あの難解なカミュの「ペスト」が多くの人に読まれたりもしています。逃げ場のない辛さを、想像力が支えてくれることもあるのです。
今、ここにないものを共有できる相手は、本当に大切な人。私にとっては、子ども達もそうだけれど、実家の姉がそれにあたると思います。幼少期に、同じものを見て聞いて、育ってきたのは大きいのです。残念ながら、夫は目に見えるものしか感じ取れない人なので、これには当てはまりません。
長男が年少さんの頃のイマジナリーフレンド(空想の友)は、「ヒカリもん」という名で一本角の丸い生き物でした。幼児の想像力半端ねえ、と感じたのは、それを彼が友人と共有していたことです。地面に絵ぐらい描いたかもしれませんが、どこにもいない生き物のイメージを共有して、ごっこ遊びにまで発展させるという複雑な思考のプロセスをちゃんと使いこなしていました。意識することなく。
大人になった今でも、その話をします。照れたり、忘れたということなく、普通に応じてくれます。
子どもには味方が必要です。味方だよ、と示す一つの方法として、絵空事を共有するのは実は、とても有効だと私は思います。それは、ヒカリもんのように、パーソナルであればあるほど。
大学で、学びたいけれど、心身の理由で思うように捗らない学生(うちの長男も含まれます。遠隔授業で、今季は今までになく順調に課題が進み、結果、過労で寝込みました)は、なぜかポケモン好きの確率が高いです。そもそも、「ポケモンGO」も含むと、ゲームとしてのポケモン経験者自体は以前より多くなっています。
私の持ち物は、ほとんどがポケモンモチーフです。ポケモンセンターには、大人が使っても差し支えないデザインのものがたくさん売っているのです。私自身がゲームはしない(したいけど、時間がない)けど、アニメやマンガで示されるポケモンの世界観が好きです。だからそれぞれも子ども達と、私とあなただけのキャラクター像を、長年にわたり親子で共有してもきました。
研究室に相談に来たとき、今だとGoogleのMeetを使って面談しているとき、私のスケジュール帳や、眼鏡ケースといった身近なものにシックなポケモンモチーフがついていると、相談者はそれだけで心を許してもらえることもあるのです。
私は物語の構造について解説する際に、「劇場版ポケットモンスター」の例を挙げることがよくあります。第3作以降は、全部見ているので、対象の学年が小学校低学年くらいの頃の作品を例に挙げると、劇場でなくても、DVDやテレビで見ていることが多く、物語を共有し易いのです。
「詳しいですね」と感心されて「子どもと観たから」と答えると、「うちの親は寝てました」。
そうなんです。アニメの映画を観ていると、大人のいびきがよく聞こえます。うちも夫がそうだったので、一緒に行くのはやめました。ここで、架空の世界を共有できるかどうかは、将来的な信頼関係と無縁ではないと思うので、積極的に共有するという方向に行って損はありません。
ま、私はもともとああいう世界が好き、というのが一番大きいんでしょうけど。というのも、コロナ禍でアニメも新作ができなくなり、旧作の再放送が増えましたが、その中に「未来少年コナン」と「銀河英雄伝説」という、私が嘗て観ていた作品があったんですね。これが今観ても本当に面白いんだな。後者は、私が観ていた作品のリメイクなんですが、原作が物語の骨格をきちんと持っていて、それにかなり忠実なつくりをされているので、どちらも30分はあっという間です。
それを学生に勧めるにあたって、以下のように言うと、「観てみようかな」という反応を引き出すことができます。
「190cmの梅原裕一郎が、上司である183cmの宮野真守に頭ぽんぽんされて、仕事に疲れた鈴村健一が帰宅すると、引き取られたショタ梶裕貴が紅茶淹れて待ってる話」
その道に明るい人にしかわからないけど、この世界を共有している人にはとてもよくわかる書き方です。
私は子ども達と一緒に任天堂スイッチで「リングフィットアドベンチャー」という筋トレしながら進んで行くロールプレイングゲームをしていますが、最初の目的であったダイエットに効果がない代わりに、腰痛と肩凝りが劇的に改善しました。もう一つ、大変にありがたい変化があったのは、次のように表現しています。
「吸水シートがいらなくなりました」
なんのことだかわからない人には、わからないほうがいいんです。それじゃ気が済まないからって無理に知っても、全然すっきりしないし、面白くない。でも、これを読まれた、「ほぉ」と思われた方には、とっても参考になる情報ですよね。
だって、一番結びつきの強い、悩みを共有する仲間ですから。