2023.09.10
 私の夫はいろいろと困った人で、そらもう、ネタにしたら、話しても書いても愚痴が出て来る。ちゃんとネタに昇華しきれてないことも多々あると自覚しております。でも大好き。もっと一緒にいたかったなあ。
 一重に相性の問題だと思います。
 彼は、物事を勝ち負けで考える人でした。勝ちたい。とにかく負けたくない。絶対に引かない。だから、敵が多かったです。
 私は、物事を貸し借りで考えます。引くときには引きます。それは貸しを作ることだから。
 つまり。
 喧嘩になったときは、いつも私が引きました。それは、彼にとっては、「論破した、勝った」という状況で、私にとっては「今日は貸しといたるわ」というものでした。
 これ以上、相性が良い組み合わせって、そうそうないのでは?
 結果的に、気持ちよく、勝ち逃げさせてあげられたと思っています。あとは、私の方が長生きした分、損したって思わずに死んで行けたら良いんですけど。

 障害がある、と診断されると、何かと特別な存在になってしまったかのように扱われることがあります。自ら、そうなっていく人もいますよね。町中で、障害があるからと特別扱いを望む人。
 でも、差別はして欲しくない人。
 うーん、困りましたね。
 障害を理解してもらった上で、普通に生きていくって、案外、難しいみたいです。

 次男は保育園ではなく幼稚園に通っていました。私の職場である大学の附属です。遠方からベンツで通っている子も少なくない園です。今は、こども園も保育園もありますが、当時は幼稚園だけでした。小学校から女子校になるせいか、全体に男子は少なく、男子・地元女子・ベンツ女子の三者がほぼ同数いたと思います。驚くほどのベンツ率でしたよ。ハリウッドスターは、プリウスが主流だと言うのに。以前は路駐が酷くて、私達が幼稚園の隣の公園で子どもを遊ばせていた時代には、公園の周囲が全部、車だったりしたんですが、園からきつく路駐禁止を言われてからは、送迎用の車専用の駐車場を借りるのが常識になりました。
 そんな環境にいると、男子の結束が強くなります。私は、男子と女子、両方とも通わせましたから、なんとなく肌の感覚で、ですが、男子のママ友付き合いと、女子のそれとは違うと感じていました。一言で言うと、男子の方が楽です。
 ただ、障害を理解している人と、障害を理解している人でありたいと思っている人の間には、深くて広い溝があるわけで。それが、障害を理解している人だと周囲に思われたい人になると、日本海溝並みになってきます。
 私が常々言っているのは、障害児を、子どものコミュニティの中で、良い子のリトマス試験紙にしないでほしい、と言うことです。
 障害のある子に優しくできるのは良い子。
 そんなに単純じゃないよ。
 有難いことに、次男と仲良くしてて、お母さんもお付き合いしやすいご家族が複数ありました。私が忙しいときには、幼稚園のお迎えもしてくださったものです。親が迎えにいけないときには、事前に担任の先生にお知らせしておきましたが、初めてのときは担任の先生は戸惑っておられました。大丈夫ですか、と。ですから、大丈夫、とお答えしたのですが。
 電話、かかってきました。
「海斗くんですね、今日、お迎えの前に、機嫌悪くて、ひっくり返って泣いちゃってて」
 え?
「じゃあ、Mさんちには行けなかったんですか?」
「私が、何をしても駄目だったんで、Mさんに言ったんです、今日は海ちゃん、もう駄目です、私が預かりますって。そしたらMさん、『海ちゃん、行くよ。Yと遊ぶんでしょ?』って一言。海ちゃん、それで立ち上がって、Yくんと手繋いで帰りました」
 だったら電話不要では、と思いつつ、お気持ちお察しします、という部分もあるんです。
 毎日、一生懸命お世話してくださる先生の声に反応しないのに、よそのお母さんの一言で泣き止むなんて。そのお母さんのルックスが、バービーちゃんみたい、というのも、もしかしたら、効いたかもしれない、と思っています。
 お迎えをお願いするときは、引き取る際に、いつもお持たせを持参しますが、この日はちょっと奮発して。
「大変だったみたいね」
 と恐る恐る尋ねたら、
「ぜんぜーん。大袈裟に考え過ぎなのよ、真面目な人は。多分、あの先生、海ちゃんに普通に声かけること、してないと思うよ。腫れ物に触るような言い方しかしないから、通じないんだと思う」
 それには異論があって、やはり、彼女のキャラクターが立っていると思います。そして、そちらの息子さんとうちの次男は、相性がよかったんです。

 後日、別のお母さんからうちで預からせてほしい、と言われました。
「あ、でも、しばらくは私か夫でどうにかできますから」
 と言っても、敢えて、そういう日を作ってほしいと。
「うちの子も、海ちゃんと遊ばせたいんです」 
 だから、お願いしたんですが。
 駄目でしたね。引き取りに行きました。
 後日、訊かれました。
「うちの子は、優しくないんでしょうか」
「子どもにも相性ってもんがありますからね。合わなかったんでしょう」
 納得していたようには見えませんでした。
 お子さんからは、
「海ちゃんに優しくしないと怒られる。死ねばいいのに」
 と言われました。
 今、医学部に行っておられるそうです。
 お母さんの方は、お子さんが国立の医学部に合格されたので、もう優しいかどうかは問題ではないみたいです。

 意固地になったり、自虐的になったり、疑心暗鬼で周囲を敵と見做したり、そんな必要はありませんが、他人に期待をし過ぎないことが肝要かと。それは、何をして欲しいかを、明確に伝える必要の根拠にもなります。
 
 うちの子の近くで、大きな声を出さないで。
 どんな好きな人からでも、触れられるのは苦手だから触れないで。
 白い物しか食べないから、おやつは持たせますね。多めに持っていくので、みんなで分けてください。

 変だと思われないかな、ってことでも言ってみると、案外すんなりわかってもらえるもの。
 わかってもらえないときは? その人と付き合わなきゃいいんですよ。
 すんなりわかってもらえる理由はね。
 世の中、発達障害の人は結構いらっしゃるので。
 人生のどこかで知っているので。
 あー、そういうことね、で済んでしまうってことです。


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