2024.10.10
 さて、運動会のシーズン真っ只中です。今は、5月にするところも多いんですが、先月に続き、この話題を続けます。
 前回、幼稚園の運動会の規模縮小、時間短縮についてお話ししました。コロナを経てのことかと思ったら、理由は別でした。それまでも、年少さんのみ午前だけだったのは体力の問題だったのですが、暑過ぎて年長さんでも午後に活動するのは厳しい、との判断からだそうです。先日、高校の文化祭が行われました。年少さんはダンスを、年長さんはアートを見学に行きましたし、事務員さんが高校の事務室行くついでに、おやつを買ってきてくださったりと、私もちょっぴり楽しんだのですが、もともとは、いくらなんでも35°越えの中でするとの想定で企画されたものではなかったんだろうと思います。いつまでも暑い今年の夏、これはもう災難のレベルでは、と思いつつ、でも、高校生の皆さんも、園児たちも笑顔いっぱいでした。
 ついでに、見学に出発する年長さんを見送ったら、「いってきまーす」「あけみせんせーい」と通り過ぎてく子の中で一人だけ「ばーか」と言い捨てていきました。私が反応しなかったので、いきなりの暴言にフリーズしたと思われていたようですが、実は「やんのか、こら」と言い返しそうになったのを、自制していた故の沈黙です。もちろん、軽い感じで冗談めかしてですけど、流石に園長先生の言う言葉ではありませんよね。

 以前から、私は立場に相応しい言動ができてませんでした。例えば、長男が小六のとき、彼の親友が赤組の応援団長で、鉢巻と襷、白手袋がとてもよく似合っていたので、「かっこいい」と大騒ぎして、長男から、
「いい年して、やめなさい」
 と嗜められました。
「よそさまの息子さんですから」
 私はうちの息子さんが、褒められたら嬉しいけどな。学校ではそのような機会はありませんが、当時は空手の試合に出れば、少しは褒めてくれるママ友さんもいてくれたものです。

 そんな小学校の運動会、次男はどのように参加していたかというと、特別支援級の子は子ども達が「なかよし学級」と呼ぶ、制度的には「親学級」と呼ばれるクラスの席にいました。それで、すべての種目に他の子ども達と同様に参加します。
 3年生か4年生のとき、大玉転がしがありました。うちの学区は競技のために子ども達が席を離れると、親が自分の子の席で観戦するという合理的なシステムです。入場してきた子ども達を見て、私の周囲がざわつきました。アンカーのビブスを、うちの次男がつけていたからです。私が一番思いました。無謀だろって。アンカーがとろかったせいで負けたとか、言われたくないし。周囲のママ友さん達は「大丈夫よ」「一人で走るんじゃないし」と言ってくださってはいますが、そうじゃないだろうと。
 ところが両脇の席に残る子ども達は、そのざわつきの意味がわからないのです。曰く「海ちゃんが一番背が高いからアンカーなの当然じゃん」。だから、身長だけの問題じゃないんだって。というのが、子どもに伝わらない環境に、私は助けられてきたのだと、今も痛感します。
 結果的には、とっても速かったです。親は、「すご! 速!」と盛り上がりまくり、「やればできるじゃん!」との結論に至っていたのですが。実情は別にあって、次男が大玉の上に乗りたがるのを周囲の子が「駄目だよー、海ちゃん」「危ないって」と言いながら、乗らないようにどんどん速く前に出した結果だそうです。それを「一等になったからいいじゃん」と言える雰囲気の学校って有難いって思います。
 そう言えば、物事を斜めから見がちなお母さんがいらして、こんなことをおっしゃいました。
 特別支援級の子達が、普通に背の順に徒競走の列に並んでいるのを見たとき、それを冷笑する気持ちで見ていたと。みんなと一緒に走ったら、ドンけつになるに決まってる。それをみんなで暖かく応援して、いい子になったつもりになりましょうってことか。いやあ、そこまで考えるのもすごい拗らせっぷりだし、口にしちゃうのもすごい。ところが、彼らが鈍亀なのは予想通りだったけど、彼らへの応援が「頑張れ」じゃなかったことに驚いたんだそうです。「かわいい」、女子が口々に言いました。「きゃー、かわいい!」と言う歓声に立ち止まって応える子もいました。「頑張れ」はいい子を演じるための建前だけど、「かわいい」は本音。この子達の受け入れは、本気だ、と感じたそうです。きっと、彼らはそんなことを考えずに、普通に共にいてくれただけだと思うんですが。
 次男は運良く、6年間を中堅の専門の先生に教えていただくことができました。この先生には、彼らを教えるだけでなく、周囲の子達が自然に受け入れることができる雰囲気づくりにも尽力していただいたと思います。

 中学校では、支援級は支援級の席があったし、競技も支援級だけのチームで出場しました。むかで競走のとき、支援級の高身長組が、ものすごい速さで爆走し、これは一位か? と母親達は盛り上がっていたのですが、担任の先生はおっしゃいました。
「曲がれないんですよね、彼ら」
 確かにフェンスで行き止まりになって、のそのそと方向転換して、再度高速歩行でゴールする頃には安定のぶっちぎりでビリ、でした。
 でも、通常ではすっごく速い、がわかっただけでも素晴らしいと思います。
 とりあえず、なんでもやってみるもんですな。
 瓢箪から駒は、結構な頻度で出ます。


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