2019.08.10
久しぶりに、やらかしてくれました。
次男に、振り回された年月も過去のこと。家族も頑張ったし、良い先生に恵まれ、良い主治医に頼ることができ、折に触れては良い担当ボランティアさんの力を借りた彼は、良い上司のいる職場で、伸び伸びと働いています。最近は、一人でのお出かけを覚えて、休みの日には名古屋港に行ったり、モリコロパークに行ったりします。ポイントは、程よい規模の遊園地。
その日も、一人でモリコロパークにお出かけでした。朝、財布を確認したら、千円札が3枚と小銭。遊園地でちょっと遊んで、モスバーガーでお昼を食べて帰ってくるには充分。だと思ってたのに。
電話が鳴ったのは午後一時半くらい。
「おかあさん、お金がありません」
は?
「今どこにいるの」
「お蕎麦屋さんです」
「どこのお蕎麦屋さん」
「長久手のお蕎麦屋さんです」
「お金、持ってたじゃない」
「もうありません。おかあさん、電話番号教えてください」
「今、かけてるじゃん」
「でも、教えてください」
「はいはい」
そして、
「今から行くから待ってて」
と切りました。
障害児者には、携帯電話にGPS必須。調べたら、お店の場所も名前もすぐわかりました。出かける準備をしていると、お店から電話が。ちゃんと店名と場所を教えてくださいました。
よく考えたら、次男が電話かけてるときに、代わればよかったのにと思うのですが、「電話を他人に渡して話してもらう」という行動は、彼にとっては、かなり高度な技ですね。下手に、何かを提案しない方が良いと思われたのかもしれません。客商売とは、いろいろな人と出会うので、そりゃ、コツも覚えるでしょう。
ここでも、彼は強運でした。食事した後で、お金が足りなくて、充分なコミュニケーション能力がないって、警察に渡されても文句言えない事案ですよね。でも、彼が自宅に連絡できるように誘導してくださいました。私が訪ねたときにも、にこやかに迎えてくださいました。
「注文なさるとき、メニューの『大盛 +450円』を指で差しなすったんですよ。450円だと思われたんじゃないですか」
多分そうです。でも、赤の他人がなんて的を射た、そして親切な解釈。
季節の天ぷら付きせいろ蕎麦大盛り、2300円払って来ました。たっか!
でも、きっと美味しいお蕎麦です。あの親切なおじさんが丁寧に作っておられるんでしょう。幸せな顔して食べていたに違いありません。美味しいものを食べる彼は、とても幸せそうなんです。
そこからのお金足りない、は地獄。
 ふと思うのが、お店の方の親切は、美味しそうに食べている彼を見ていたからかもしれないと。後ろ暗いところがある人間が、あんなに幸せそうにお蕎麦を食べるはずがない。
私が促すまでもなく、彼は自分から頭を下げました。
「ごめんなさい。ごちそうさまでした。美味しかったです」
「ありがとうございました。また来てください」
だから私は言いました。
「はい、今度はお金を持って伺います」
これで学習できるほど、次男は甘くないと思います。あれから、お出かけの際には、必ずお財布と今日の予定をチェック。
実際、懲りてませんでしたから。
「おかあさん、千円ください。今から、モリコロパークに行って、ゴーカート乗って、(職場の)みんなにお土産買います」
千円じゃ足りんわ。
「今日は、もう帰ります」
「はい、我慢します」
長女がいたら、
「我慢とか、どの口が言うんだ、恩着せがましい」
と言いそうなところです。
もう帰ろう、と言ったのは、この日は次男が毎年楽しみにしている地元の神社の夏祭りだったからもあります。三日とも雨の予報(と言うより、今年の梅雨は、一ヶ月くらいずっと予報は雨でしたが)だったので、天気が保つなら初日に行かせたかったのです。

結果的には、初日は私と行って、残りの二日も雨は降らず、一人で行きました。初日、蕎麦屋の一件もあって、私の機嫌が良くなかったので、一人で行ったほうがいいと思ったのかもしれません。
神社で次男を見つけた長女は、
「一人でサメ釣りして、かき氷食って、何が楽しいんだか」
 と言っていました。多分、一人だからこそいいんですよ。

忙しいときに時間を取られたし、心配したし、大変な出来事でしたが、一人で困ったことに遭遇しても、適切なSOSが出せるとわかった一件でした。一人で初めてのお店に入ることができたのが、一番の驚きでしたね。今までは、家族と行ったことのある店にしか行きませんでしたから。


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