2019.02.10
大事な言葉をもう一度

堀田あけみ

こちらと、季刊誌「アスペ・ハート」で連載を始めたとき、カイトは幼稚園児でした。今や立派な社会人です。現時点では。いつ、「立派」や「社会人」の定義から外れるか、わかりませんが。
そして、今回と次回とで14年間、毎月お話してきた子育ての楽しさも終わりになります。
私は、どこに行っても子育ては楽しいものだとお伝えしたいと思っています。ただ、それは、さじ加減がとても難しい仕事で、楽しいだけで終わると、嘘っぽかったり、「ああ、あなたはいいですね、ふーん」となってしまいます。辛いこともある、私もそれを実感している、でも、子どもと過ごす時間には、代替の利かない幸福があるのではないか、という問いかけをしたいのです。
今だから、14年前、一番最初に提示した話題を再度語りたいと思います。私の子育ての基本になる3つの言葉です。

一つ目は、「いつの間にか」。
 子育ては、「いつまで続くんだろう」の連続です。おしめ替えからのトイレットトレーニング、授乳からの離乳食作り、夜泣き、コリック、抱っこ。でも全て、いつの間にか解決しているものです。外出時には、おしめや着替え、気晴らし用の玩具、おやつ、タオル、離乳食と、ぱんぱんに膨らんでいたバッグが、いつの間にか軽くなっています。
 また、ほとんどの子どもが、幼少期に、強いこだわりを持ったり、一見奇異に見える癖を示すものです。でも、いつの間にか、消えています。1日ごとの変化は小さくても、振り向けば、随分子どもは成長しているものです。解決しない問題はありません。
 だからこそ、半年以上、気になる状態が続いていたら、それはもしかしたら、難しい状況の入り口かもしれないのです。考えすぎと言わずに、向き合ってください。
 一人で解決できる気がしなかったら、どうか助けを求めてください。自治体の窓口、医者、助けてくれる人は沢山いるのです。
そして、問題は次々と起こってきます。ちょっとした不運が、心身に大きな傷を残したり、誰も悪くないちょっとした巡り合わせで、外に出られなくなったり、学校に行けなくなったり、誰も信じられなくなったりします。人生は、思うようには行かず、行きたい学校に行けなかったり、好きな人を失ったりして、心は揺れるし折れるのです。
 折れた心は、ちょっとやそっとでは真っ直ぐになりません。でも、いつかはまた上を向く日が来ます。絶望さえしなければ、きっといつの間にか。
どうか、あなたやご家族の失望を、絶望と見間違えないでください。

 二つ目は、「あなただけじゃないよ」。
 親というものは、いけないと思いつつ、目の前の子どもをどうしても誰かと較べてしまいがちです。何らかの共通項を持つ相手と。同じ遺伝子だったり、同じ年頃だったり。そして、他の母親には無いと思われる悩みを抱えてしまいがちです。
でも、多くの悩みは、共通するものなのです。思ったより、あなたは孤独じゃない。
うちの子、なかなか歩かない。他所の子は、とことこ歩いてるのに。一歳半くらいまで歩かない子は沢山いますよ。
すごい夜泣きするんだけど、他所もこうなのかしら。全ての家庭がそうではありませんが、手のつけられない夜泣きをする子は珍しくありませんよ。
晩御飯を作る頃に、尋常じゃない泣き方をして、何をしても泣き止まないんだけど、情緒的な問題でもあるの? コリックと言います。よくあることです。
そして、発達障害も同じです。身近にいない人の方が珍しいくらいです。身内とか知り合いとか。
あなたが思っているより、あなたは一人じゃないことを、覚えていてください。

三つ目の言葉は、来月にお話ししようと思います。





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