2019.01.10
選ぶ力

堀田あけみ

大学の教員をしていると、入試関係の仕事に取られる時間が、意外と多いものです。私は私学に勤めているせいもあるかもしれません。4回にわたるオープンキャンパスが9月に終わると、10月には既にAO選抜があり、11月に併設校(今は附属高校とは言わなくなっています。そのまま上に行く生徒が少なくなっているからでしょうかね)・指定校(意外と知られていないのですが、面接のみでよほどのことがない限り合格が保証されている制度です。各校に一人か二人と枠が決まっているので、校内での選考が難しくなります)・公募の推薦入試があります。それを受けて、進路が早く決まってモチベーションを保てない生徒を対象に、「スクーリング」と呼ばれる入学前教育が行われるのが12月。1月にセンター入試の監督業務をこなして、2月・3月には一般入試。1月と3月にもスクーリングがあります。
他者の進路選択に関わる仕事をするのは、しんどい。マナトが3年に及ぶ受験生時代をようやく脱したと思ったら、コトコの高校受験がやってきて、私の正月は常に受験勉強のお世話で終わります。昨年度は、カイトの就職も控えていました。高2で既に口約束で内々定をいただいていたものの、公的な企業であるせいか、正式な決定は3月。面接もこの3月なので、それまで安心できません。
子どもが成長するのに付き合うのは、進路の選択にも付き合うということです。次々とやってくるんだ、これが。私にとっては、マナトとコトコの義務教育のみ、迷う必要はありませんでした。これだって、受験を選択する可能性はあります。
カイトについては、特別支援学級か特別支援学校かの選択がありました。普通級との間での悩みもあるかもしれません。
子どもの進路の選択で勝負になるのは、親がどこまで自分を殺せるかです。どうしても、「私はこの子に、こう生きてほしいと思う」というのが出てしまう。子どもだって、これを明確に希望する、というのがなければ、どうしたらいいかわからないもので、親の顔色頼りになったりします。節目毎に、自分で選択させてきたつもりですが、ちゃんとできていたかなあ、といつも不安に思っています。特に、マナトなんか、選ぶ力がなかなかつかない子でしたから。

親が自分を出してしまうのは、子どもには任せておけないと思うからです。カイトの進路説明会のとき、進路指導の先生がおっしゃいました。
「仕事は、ずっと続きます。毎日するものです。この仕事は違う、と感じたら言ってください」
そもそもカイトに好きな仕事はあるんでしょうか。「食べ物を作りたい」と言っていたけど、そういう仕事は、なかなかないと思います。どんな仕事に実習で行っても、そこそこ上手くこなして、楽しそうに仕事に出かけて、職場で可愛がられて帰って来る。だからこそ、彼の本当にやりたいことが見えない。郵便局のお仕事だって、そんなに好きなんだろうか、と思っていました。
高等部時代、毎年、グループに分かれて職業実習をしていました。人気のグループには、希望しても入れるとは限りません。高学年が優先されます。ずっと、窯業(愛知県ならではでしょうか。美味しいものがたくさんとれる三重県の特別支援校は食物が強くて、職業実習で焼くパンが一般販売されるときは、行列ができると聞いたことがあります)が第一希望でしたが、1年生は木工、2年生は農業でした。ようやく、第一希望が採用されそうな3年生になったのですが、いきなりサービス業のクラスを希望します。
「だって、卒業したら郵便局で働くからです」
私が思うよりずっと、彼は働くことに真摯でした。
高校も大学も、「自分の意思で決めなさい」「オープンキャンパスで実際のところを見ていらっしゃい」と言われるものの、きっとどうしたらいいかわからないのが本音。小学校の卒業式で、自分の夢を語るのが、定番になっているけど、「国境なき医師団に入って可哀想な人を助けたい」と言える12歳は羨ましいような、先が心配なような。余計なお世話ですが、挫折したら病みそうで。
 世間には色々なお仕事があります。塾のお仕事は、まだ勉強が足りない、とか、自分の意思で学校を決められない子は、そこで既に負けているとかの、煽りを入れることです。だから、そこそこに聞いて、子供に無理はさせない。大学に入った時点で、何になりたいか決まっていなくても別にいい。珍しいことではありません。資格系の学部でない限り。大人になってから転職する人だってたくさんいるのです。
子どもに可能性を見失わせることだけはさせないように。自分で自分の道は選べるように。小さなうちから、自分で選ばせることを繰り返して、選ぶ力を身につけさせましょう。
コトコは今でも、おかあさんが選んで、と言うことが多いです。大事なことなのに。でも慎重に彼女の意向を探らないと。思い通りに行かなかったら、
「ほらあ、おかあさんのせいだよ」
が待っている。
マナトは確固たる自信を持って、日々のワードローブを選んで大学に行きます。
それが、くそださいと思う私は、口に出すべきか否か。せめて、紺色以外の服を買え。
カイトは旅行先で、職場へのお土産に訳のわからん「白い恋人」のバッタもんを選びます。いやここ、名産色々あるんですけど。
選択力とセンスは、別もんということで。



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