2018.06.10
おいしそうなお弁当
堀田あけみ
次々と、短いスパンでブームが来ては去って行きます。
昨今、「地味弁」がブームとか。手の込んだ「キャラ弁」への対抗だとは容易に察することができますが、ブームにするほどのもんか、これ。ネットで検索してみましたが、見たとこ、普通の弁当ですがな。いや、私が「地味」を普通だと思っとっただけかい。
でも「地味」派の言い分は、実に真っ当な正論です。「地味なお弁当は美味しい」。まったくだ。それに追い打ちをかけるように、柳葉敏郎が美味しそうに海苔弁を食べ進めていくCMが放送されています。しかも実況解説付き。ほかほかした海苔弁。うん、うまいよな。ちくわもな、天ぷらにするとなんであんなにうまいんだろう。
しかし、私達が普通に口にしているお弁当が、よくあることですが、欧米人から見ると、不思議な文化らしいです。小さな箱に、綺麗に詰められた数々のおかず。アメリカのお昼ご飯って、ピーナッツバターのサンドイッチだけだったりしますもんね。マナトがイギリスの寄宿舎にいたときには、テイクアウト用のランチは大きなサンドイッチ一切れ(流石にピーナツバターだけじゃない)とりんご、が定番だったそうです。
栄のロフトなんかに行くと、お弁当箱がずらっと並んだ一角があって、わくわくします。これに、色も形もとりどりのピックやバラン、おかずを入れるカップ、箸箱、キッチンクロス、ランチトートに水筒、日本人の弁当愛って素晴らしい。
作るときにも、型抜きや、ふりかけで模様を作る道具、パンに絵柄をつけるものもあります。
この、ツールがいろいろあって楽しいのは幸いです。外国から来た子持ちの友達の悩みが実はお弁当。サンドイッチだけ持たせると、
「みんな綺麗なお弁当持ってきてるのに」
と不満を言われるそうですが、百円ショップで可愛いサンドイッチバッグを買うだけで解決するし、見よう見まねでそれらしいものを作るときにも、可愛いツールを使えばどうにかなります。何より作ってて楽しい。子どもも喜ぶし。
義務教育のうちは、お弁当は特別なものです。行事にしか登場しません。だから、蓋を開けたときには幸せな気持ちになってほしいと思います。キャラ弁の一つも作りたくなるさ。私も作りました。アンパンマンは、比較的簡単に作れます。ウリムーというポケモンは、ハンバーグと海苔、魚肉ソーセージで簡単に作れました。運んでいるときに、崩れてしまわないように、きっちり詰めたら、どっちも全部蓋にくっつきました。その後、アンパンマンの模様が印刷された海苔、ポケモンの型抜き海苔が重宝しております。しかしすぐに、ピックとおかずカップだけでキャラを強調する方向に移行。それでも、子ども達は「美味しい」と言ってくれるので、私のお弁当はこれでいいんだと思いました。
ありがたいことに、我が家の子ども達は「美味しい」を言ってくれるタイプです。言わないタイプの子もいます。優しいとか、気が効くとかとは別の軸で、気持ちを口にするタイプと、しないタイプの子がいると思います。
地味弁のブームを作った方が、インタビューで仰っていました。
「キャラ弁作りに疲れて地味な弁当を作ったら、いつも残してくる子が綺麗に平らげて、お母さん、明日もこういうお弁当にして、って言ったんです」
だわな。キャラ弁て、色綺麗にするために、やたらブロッコリーとプチトマトと人参入れるもんな。残したくもなるわな。
キャラ弁て所詮は親の自己満足、という流れもありますが、そこまでは言わなくていいと思います。やっぱり子どもも嬉しいよ。
カイトが特別支援校の高等部を卒業し、働きに出るようになってから、毎日お弁当を作っています。非正規とはいえ会社員ですので、長い夏休みもなく、早起きしてのお弁当作りは続きます。社食はあるので(その社食を毎日掃除しているのがカイトなわけで)、そこで食べてもいいかな、とは思います。でも、新しい環境に慣れてから、社食でご飯を注文して食べる、という今までになかった行動を習得した方が良いだろうと、思っています。
同時にマナトも大学生になりました。4限とも授業がある月・水・金はお弁当を持って行き、時間割に余裕のある火・木は学食に行っています。話を聞いていると、お弁当の日も、友達と学食で食べてるみたいなので、ずっと学食でもいいんですけどね。
家にいるときは、自分でご飯をどうにかするおとうさんですが、そうすると外食かコンビニかインスタントラーメンなので、体調管理のために、私がお弁当を作ることになりました。炭水化物を少なくするので、おかずでお弁当箱を一杯にするのが大変です。
こうなると、自分のお昼も作っちゃいましょう。名古屋市内の公立中学は、お弁当持参かスクールランチか、選択できます。コトコは、お弁当が大好きなんですが、「持っていくのが面倒」と、ランチ券を予約しています。
というわけで、この四月から朝は食卓一面にお弁当箱が並ぶことになりました。当然、「地味弁」です。
早起きが辛いなんて、贅沢は言っていられません。いろいろあったオハラ家です。普通に働けることと、普通に学校に行けることと、妻の手料理を夫が罵倒しないことの幸せを知っているから、元気に起きます。で、ときどき昼寝します。
「地味弁」ブームを作った女性の正論には、惜しみない敬意を表したいのですが、私が地味に一番のリスペクトを感じたのは。
取材が入った彼女のキッチンに、ジミ・ヘンドリクスのレコードジャケットが飾ってあったことです。