2018.1.10
お風呂の問題
                        堀田あけみ

 先月に引き続き、お風呂の話をします。今回は、外のお風呂。温泉やスーパー銭湯です。自宅以外のお風呂を受け付けないタイプの子もいますし、お風呂大好きなんで、機嫌が良くなるから、連れて行きますよ、というおうちもあるでしょうね。
 オハラ家は、大きなお風呂大好きです。銭湯から温泉まで。おとうさんは、ダイエットとリバウンドが趣味で、 40キロぐらい、普通に上下します。 100キロ以上あるときが、珍しくないので、マンションのお風呂では、リラックスできないのです。
 お外のお風呂の魅力って、そのものだけじゃありませんもんね。お風呂上がりにおいしいものがあったり、ゲームがあったり、マッサージチェアがあったり。最近は、岩盤浴のコーナーに漫画がたくさん置いてあるところもあります。
 でも、子どもとのお風呂には、様々な厄介ごとも付き物です。
 一番大きいのが、どちらの親が連れて入るか(子どもが複数いる場合は、どういう組み合わせにするか)。例えば一人のときも単純に、交代に入れれば良いというものではありません。どちらかでないと駄目、というケースもあります。そうなると、なんでいつも自分ばっかしって、思いますよね。
 往々にして、こっちでなきゃ駄目(多くの場合がお母さんでなきゃ)なときは、育児の分担自体が偏っているのが原因ですので、欲求不満は貯まります。たかが風呂と言うなかれ。お風呂に入ってリラックスできるか、余計疲れるかの違いは大きいでしょうが。
 他にも、荷物が多かったり、粗相を心配したり、足を滑らせて転んだり、マナーを十分に守れなかったり。かと思えば、せっかくお風呂はいったのに、風呂上りにジュース飲んで服に零しちゃったり。

 子ども達が小さかった頃は、キャンプ大好きだったオハラ家です。近所のご家族もよく誘いました。一泊だと東海北陸道を通って岐阜へ行くことがほとんどで、帰りには温泉に寄ります。
 基本、楽しいからみんなで行くんですが、向いてないタイプの人もいまして。
 よその家族と、自分ちを比較して、不満持っちゃうタイプは向きません。よそのお父さんは、薪くべたり、お肉焼いたりしているのに、うちのお父さんは何もしてないって、いらいらしたり。何かしているお父さんは、好きでやってて、焼き鳥奉行だったり、焚き火奉行だったりするので、やらしときゃいいのに。
 あるとき、帰りのお風呂で、お兄ちゃんをお父さんが、まだ小さい赤ちゃんをお母さんが連れて、入ろうと相談してるお家がありました。でも、お兄ちゃんが、
「ママと入る」
 まだ、4歳でしたから。と同時に、結構、兄の立場を拗らせてる時期でした。
「パパとでいいじゃん。赤ちゃん連れてるから、着替えも体洗うのも、してあげられないよ」
「自分でやる」
「できないでしょ」
「やる」
「パパと行って」
「絶対やだ」
 子煩悩ないいパパなんだけどなあ。
 で、仕方ないから、女湯へ。
「ママ、脱がせて」
「自分でやるって言ったじゃん」
「できない」
 見かねて、お手伝いを申し出ても、
「おまえ(私のことね)なんかに頼まねーよ、ばーか」
 まあ、こっちも2歳児版カイト連れてて、機動力は非常に低いんで、強く出られません。
 浴場でも、
「洗えないよー、洗ってよー、こっち来てよー」
「だから、赤ちゃんいるでしょ」
 まったく出口が見えない会話に、彼女の怒りはお父さんに向いていきます。
「パパが家におらんで、こういうときに役に立たんのだわ」
 でも、お仕事してるんだから。
 そこへ、救世主。
「二人連れて大変でしょ。赤ちゃん、抱っこしてるから、お兄ちゃん洗ったげて。ついでに、ママものんびりして」
 別のお母さんがやって来ました。
「おたくのお子さんは?」
「二人ともパパに。大変そうだからお手伝いしようってことで」
 とってもピュアな笑顔で、赤ちゃんも引き取った彼女は、最大の善意で、最悪のタイミングに声をかけてしまったのかもしれません。親の言うことをよく聞いて、両親ともによく懐いている子ども達と、二人引き受けて平然としているお父さんを、見せつけてしまったわけで。
 お風呂とか、ご飯とか、日常って怖い。
 家族の形が露わになってしまうから。どっちがいいわけでもないのに、隣の芝生は青いものです。
 一緒にキャンプに行くのは、すっぴん見せても大丈夫な人、というのがおきまりのジョークでしたが、日常のあり方が見えてしまうことに較べたら、すっぴんなんて可愛いもんかもしれません。

 男の子ばかりの家だと、ある日を境に、お母さんがとても解放的になるんだそうです。さすがに、女湯卒業だろ、と言う時期になると。私にもそういう時期が来るんだと楽しみにしていたら、娘がやって来ました。
 私の勤める学部では、毎年四月に一泊の新入生研修があります。素敵な温泉のある宿に泊まります。初めて行ったとき、学生リーダーによるガイダンスが始まるので、先生方は夕食まで自由、となって、真っ先にお風呂に行きました。久しぶりに、大きなお風呂に一人で入れるんですもん。
 夕食と、夜の行事が終わったらもう駄目です。入れません。
 うち、女子大なんで、お風呂が学生で溢れます。
 だから、その時間が唯一のチャンスなんです。
 今も、以前ほどではないですが、お風呂屋さんに行きます。娘と一緒に、いろいろお喋りしながら、そこそこ長い時間を過ごすのは、楽しいものです。もう中学生ですから、何の負担にもなりません。
 で、新入生研修のときには。
「先生方、お風呂行きませんかっ? 行かれないから、私先に行っちゃいますよっ」
 結局、ただの風呂好きだ。



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