2017.09.10
           閉店のお知らせ
                        堀田あけみ

 近所のTSUTAYAが閉店します。書店も一緒だったので、便利でした。困ったなあ。
 まあ、それほど昔からあったわけではなく、ずっとちょっと離れたレンタルビデオ屋さんを使っていて、あ、近所にできて便利だなあ、となったのは多分10年くらい前じゃないかなあ。十分古いか。
 子ども達が小さい頃には、レンタルビデオは必需品でした。でも、夢中で一人で見ててくれるわけでなくて、一緒に観るもので。こっちは、ぼけっと見てればいいから、ちょっと休めるかなって感じで。
 4駅も離れたところにあるお店に行って、借りて、一週間後に返すときに、また借りるというローテーション。マナトのお気に入りは、とにかく「おかあさんといっしょ」。小さい頃は、モジャラというキャラクターが文字や数字を教えてくれる、七田式右脳トレーニングのビデオに嵌まってました。「そーなんだ!」っていう、科学的な知識を物語仕立てで教えてくれるアニメに嵌った時期もあったな。「トムとジェリー」を嫌いな子どもはいないと思いますが、これはどちらかというと、私の好みで選んでます。一度に借りられるのが4本だったので、どれを、どんなバランスで借りるかが、大きな問題でした。
 カイトは、一時期、アニメがすごく苦手でした。遊びに行った先で、ご厚意で用意していただいたアンパンマンのアニメでパニックになったり、延長保育でビデオを見ることになって、大泣きしたり。通常の保育では、ビデオ見ることはありませんから、先生方も驚かれたと思います。
 延長保育の時間に、「まんが日本昔ばなし」のビデオで、子ども達が大泣き、ということもあったそうです。ほっこり楽しい、教養アニメかと思いきや、怖い、不気味、容赦ない不幸、といった昔ばなしの本質を、貫いたが故の名作なのですよ。昭和のアニメをなめたら、えらい目にあいます。
 マナトもカイトも「えいごりあん」は大好きでした。数回のカナダでの生活と、この番組のおかげで、二人とも英語はそこそこ大丈夫です。一方のコトコは、海外に滞在したこともなく、「えいごりあん」は怖がってみませんでした。無表情なキノコのキャラクターが、立ち上がってこちらに一歩踏み出すオープニングからして駄目だったので。未だに英語の苦手意識は拭えません。
 コトコは、それほど映像にはまったことはないように思います。「ふしぎ星のふたご姫」は結構見たかな。早くからお稽古事を始めたり、お兄ちゃんやその友達に充分構ってもらえてたからかもしれません。
 今は、TSUTAYAには通わないけれど、無いと困ります。年に何回かの家族での車による長距離移動では、CDやDVDを沢山借りて、車内で楽しむのが定番なので。これも、選ぶのが楽しい。遠足のおやつ選びみたいです。
「TSUTAYAが閉店って、今はみんな、DVD見たりしないのかなあ」
 と、おとうさんは言いますが、今は月額980円で、動画見放題、とかありますもんね、いくらでも。我が家の18年前を考えると、NHKオンデマンドでEテレ見られたらOKだし。いちいちお店まで行って、いちいちお金払ってとか、やってらんないです。そういえば、利用しない月もあるけど、バンダイチャンネルで、アニメ見放題の契約してます。好きな作品は、まとめて見ることができるように。
 ビデオをまとめて借りてきて、週末に一気に観るなんて、イベントとしては結構楽しかったんだけどな。
 昭和に遡ると、私の父は8mmフィルムに凝っていたので、ときどき観ました。スクリーンを襖の前に張って、映写機にフィルムをセットして、部屋の電気を消して観るんです。一本が10分くらいですぐ終わる上に、音声もありません。海水浴や運動会ではしゃぐ自分たちを繰り返し繰り返し何回も観て、どうしてあんなに楽しかったんだろう。フィルムの端っこには、何も映ってなくて、通称「白身」といって、光だけがスクリーンに投影されていました。そこで影絵をするのも楽しかった。そのままではもう観ることができないので、DVDに編集し直してもらって、父の七回忌に親戚一同で観ました(昔みたいに「上映会」っていうのもなんだかで。そんな大層なものでもなくて)。父はずっと撮る側だったので、父の姿はなく、親戚が盛り上がっただけでした。
 そう考えると、不便も意外と楽しかったような気もします。でも、歩いて行ける範囲にレンタルビデオ屋さんがないのは、困るなあ。おとうさんがいないと、返しに行けないじゃん。返す限定なのは、私が借りることは多分ないから。
 でも流石は大手チェーン、閉店の貼り紙には、「今後は近隣のこちらの支店をご利用ください」って、ちゃんと案内がありました。
 うちから、車で30分くらいあるわ。近隣、ではない。 
 



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