2017.06.10
           赤ちゃんのお仕事

                           堀田あけみ

 今年の春は、なかなか本格的に暖かくならなくて、随分と長いこと、桜を楽しむことができました。それでも、連休の頃には、ちゃんと半袖でもいけそうな日がやってきます。
 連休には、半袖と軽めの靴で、片道にそれぞれ1日ずつかけて、おとうさんの生家のある群馬に行くのが恒例でした。昨年の末、その家を売って、義母は熱海にある老人専用のマンションに引っ越しました。というわけで、今年の連休は前半を私の実家で過ごし、後半は家にいました。
 暖かくて、ときには網戸にしたりします。ご近所に、小さな子どもさんはたくさんおられるようで、いろんな声がします。
 声じゃなくて、朝の6時から、上手ではないピアノの音が聞こえることもあります。結局、女性の怒声(なんで、そんなに下手くそなの、とか)で締めになります。苦情があったようで、7時からに変更になりました。それでも十分早い。
 先日まで、泣くばかりだった子は、お喋りできるようになったみたいです。
「まだ、時間じゃないよお」
「約束してないよお」
「お誕生祝いしてよお」
 毎日のように泣き声は聞こえますが、理由もわかるようになりました。お誕生日は祝ってあげてください、はい。
 そして、本当に小さな赤ちゃんが、どうやらご近所に仲間いりしたらしく。元気な泣き声が聞こえます。特に夕方、我が家が夕食を終える午後6時くらいに、他の時間帯とは明らかに様子が違う金切り声が続きます。
 コリック、ですね。
 結構、毎日、頑張るなあ。この子は。うちは、それぞれが数回しか、なかったよ。意味不明に、明らかに異常な、泣き止まない、そんな状態。
 コトコは聡い子なので、こんなことを訊いたりします。
「虐待?」
「違うねえ、多分。痛いとか、そういう泣き方じゃないねえ。赤ちゃんは夕方になると、ああいう泣き方することが多いんだよ。疲れたり、寂しかったりするんじゃないかな、赤ちゃんなりに」
 カイトは、
「赤ちゃん、泣いてるねえ」
 と確認します。小さい頃は、泣き声が嫌いで大変でした。普段、ぼっとしてて動作も鈍いのに、子どもの泣き声には、光の速さで反応して、叩いたり蹴ったりするので、油断ができませんでした。
 それを理解してもらうのが、また大変で。穏やかで、人を傷つけることなんて、絶対にしないような顔をしているので。私自身、初めてカイトが小さい子を叩いたときには、何が起こったのか判断できませんでしたもの。
 コトコが生まれてからも、泣くと叩いたり、布団ごとひっくり返したりするので、コトコが機嫌の悪そうな様子になると、カイトとおかあさん、どちらが先にコトコのところに着くかの競争でした。
 でも、泣き虫のマナトが泣いても、怒らなかったなあ。心配してばかりだったなあ。
 そんなカイトが、今や、泣いてる子の心配をしてくれるわけで。
 あの子もきっと、意味もなく泣くことなんか、すぐ卒業するでしょう。
 泣くときには、ちゃんと理由を言えて、その理由が親の胸に、ぐさっと刺さったりする日は、すぐそこですよ。どっちが良いのかわからないけど。
 今朝、長いこと空いていた、我が家の真上の部屋に、赤ちゃんとご両親が引っ越してきました。ご挨拶をいただいて、お礼と一緒にお伝えしました。
 子どもさんの声や、たてる音に、神経質にならないでくださいね、うちは大丈夫なので。
 理不尽な怒鳴り声が延々と続いたり、時間を考えずに大きな声や音は困りますが、日常の中の物音は、生きている限り、そこにあるので。
 泣いたり、てとてと歩いては転んだり、何かを落としたり、覚えたてのことばを、大きな声で繰り返したり。すべては健康な赤ちゃんのお仕事です。
 職務に忠実なお子さんを、見守ってくださいね。 



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