2017.05.10
           子育て依存

                         堀田あけみ

この原稿を書いている時点では、新年度は始まったばかりです。四月だというのに、職場ではインフルエンザが猛威を振るっており、教員に被害が多く出ております。高齢者が多いからか。いつまでも春らしい天候にならず、今年の桜は遅くて長くて。いいんだか、悪いんだか。毎年、3月末に家族旅行をします。例年、行った先の桜を堪能するのに、今年は鎌倉や江ノ島に行ったにもかかわらず、桜にかすりもしませんでした。 久し振りの首都圏の観光地は、ものすごい人(それも、半分くらい外国人)だったので、桜が咲いてたら、信じられないくらい、大変な旅になっていたかもしれません。御遷宮のときのお伊勢さんとか、春の京都とか、人多いなーと思いましたけど、なんか規模が違うという感じです。
 さてさて、オハラ家の子ども達も本格的に子どもではなくなってきました。マナトはもうすぐ二十歳ですから、文字通りの大人です。カイトも十八歳。4月9日生まれのカイトは、十八歳になって早々に、名古屋市の市長選を体験することになります。カイトに選挙権ですよ。高校生に選挙権がある国になったんだって、実感しました。マナトは、卒業してから、予定より早く選挙を経験した口なんで。
 だから、子育てを語るときには回想多めにしようと思っています。私は子育て依存症なので、泣き言にならないように気をつけながら。
 思えば子育て依存は、コトコが生まれたときに、既に萌芽が窺えました。産後三日くらいで、嵐のような不安と絶望に襲われたのです。まず、これから先、私はもう子どもを産まないんだと。これから、この子で経験する子育ての楽しみが、私の人生においてすべて、ラストタイムになるんだと。滂沱と涙が溢れたところに、折悪しく看護師さんが入っていらして、事情を聞いて先生に連絡。今までご縁のなかった先生が困った様子でいらっしゃいました。来てくださった先生の慰めの言葉が、本当に申し訳ない言い方になりますが、ありきたりで陳腐でな。担当の女医さんだったら、もっと別の言い方してくれただろうな、とか思ったものです。
 人生は一度きりで、やり直しは効かず。だとしたら、美人に生まれつかず、大金に縁はなかったけれど、障害もある、深刻な病気にも見舞われたという引き算をしても、三人の子ども達で私の人生におけるすべての幸福は贖えたと思います。お釣り来るわ。

 マナトは、最近、あるイケメン俳優さんに似ていると、よく言われるようになりました。でも、相変わらず自己評価は過剰に低いです。低過ぎて、センター入試の自己採点も、実際よりすごく低くしてしまいました。自己採点でマークずれをやらかすという器用な奴。当日、あまりの点数の低さに落ち込んで、私が予備校を変えようと言い出して、でも、今のところでもう一年頑張るということになって、センター対策、基礎強化を重点に置いたコースを選択し、新学期が始まったところで、実際の結果が入試センターから届いて。
 この3ヶ月間の、母の苦悩を返せっちゅうんじゃ。
 でも、あんまり文句言うと、また調子崩すしなあ。既に崩しかけてるしなあ。
「ごめん、俺、親不孝で」
「いや、君は、背の高さを父親から、顔の大きさを母親から受け継いだだけで、十分に親孝行だと思う」
 夫は背が高いけど、顔がものすごく大きいです。ときどき過激なダイエットをして悦に入っています。体にいいわけないのに。でも、顔は大きいままで、ちょっと変です。頭蓋骨は痩せないんですな。私は、年齢の割には顔が小さい方ですが、背も低いです。有難いことに、三人とも父親からは身長を受け継ぎ、顔のサイズは母親似です。
「逆だったら、今頃きみの仇名は加藤諒かパタリロだ。殿下でもいいが」
「やめろ」
 いや、気分上げるために言ってるだけであって、もしそうだったとしても、きっときみのこと大好きだけど。

 コトコなんて、今は家族との時間より、友達との時間を優先しています。本当に、この子は発達心理学の教科書通りに育ちますなあ。でも、その裏で、カイトがおかあさんとどこに行くのかは、しっかりチェック。家族とのおでかけも、ちゃんと楽しんでくれます。
 おかあさんも忙しくなる一方だし、なかなか合わないスケジュールの中、今度は子どもと何をしようかなあ。
 楽しみです。 





BACK NEXT

Copyright(C) 2004,Asperger Society Japan.All Rights Reserved